テクニカル分析が役に立たない(意味がない)とされる理由は?
テクニカル分析は本当にオカルト的で役に立たないのか?
投資家の間で人気の投資・トレードの分析手法にテクニカル分析というものがあります。
テクニカル分析の定義、メリット・デメリットを挙げながら、テクニカル分析はオカルト的で役に立たない(意味がない)という批判について考えてみます。
テクニカル分析の定義
テクニカル分析とは、価格などから導出されるグラフや指標によって売買のタイミングを図る手法のことです。
テクニカル分析では、グラフのことをチャートとか、罫線(けいせん)とよびます。
代表的なチャートは、日本で発明されたローソク足です。
ほかにもポイント・アンド・フィギュアやボリンジャー・バンド、一目均衡表、移動平均線などが有名です。
また、テクニカル分析における指標のことをテクニカル指標といいます。
代表的なテクニカル指標は、RSIやストキャスティクス、ROCなどがあります。
これらのテクニカル指標が一定の値になったときに順張りもしくは逆張りのサインとみなします。
テクニカル分析のメリットデメリット
テクニカル分析にはどのようなメリットデメリットがあるのでしょうか。
テクニカル分析のメリット
まずはテクニカル分析のメリットからみていきます。
メリット1:チャートを使ってビジュアル的に判断できるためわかりやすい
テクニカル分析では、チャートの形状やテクニカル指標の値を根拠にトレードするため、感覚的に理解しやすいというメリットがあります。
そのため、初心者でもわかりやすいというのが、なぜテクニカル分析が人気かという理由の1つだと思われます。
メリット2:チャートや指標を根拠にした客観的な理由でトレードできる
テクニカル分析では、チャートの形状やテクニカル指標の値を根拠にトレードするため、勘などによる当てずっぽうで(他人からみるとデタラメにもみえる)裁量トレードではなく、チャートや指標などの客観的な指針を根拠に取引することができます。
メリット3:個人投資家と機関投資家の情報格差が小さい
会社の将来性などの判断に重要な影響を及ぼす財務情報や決算発表といった情報は、私たち個人投資家よりも投資銀行やファンドなどの機関投資家の方が簡単にアクセスすることができます。
そのため、どうしても個人投資家は機関投資家に比べ遅いタイミングでしか、そのような投資情報を知ることはできません。
会社の将来性や財務分析をもとに投資をすることをファンダメンタル分析といいますが、ファンダメンタル分析によってトレードすることは、このような情報格差を理由に個人投資家には不利だといえます。
これに対し、テクニカル分析は誰もがアクセス可能な価格情報をもとにしているため、個人投資家と機関投資家の間の情報格差が小さいといえます。
最近では投資ソフトやアプリの発達のおかげで、個人投資家でも分足やティックデータによるテクニカル分析も可能になっていますので、そういった意味で情報格差はますます小さくなってきています。(ただし、完全に機関投資家の独壇場であるフラッシュトレードなどのHFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング、ミリ秒単位でのトレード)は除きます。)
テクニカル分析のデメリット
一方で、テクニカル分析のデメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
デメリット1:チャートや指標の優位性が科学的に検証されていないものが多い
テクニカル分析は、チャートや指標を根拠に客観的に取引できますが、そのチャートや指標の優位性(エッジ)については、十分な客観的な検証が行われておらず、そのテクニカル手法を使えば勝てるという取引手法の優位性(エッジ)のデータがあいまいなものが多いです。
また、市販のテクニカル分析の解説書でも、チャートや指標を理由にした取引手法について、その手法がうまくいっている少数のケースを紹介しているにすぎないものがほとんどです。
そのテクニカル手法を根拠にしたすべての売買サインがトータルで有効に機能して、優位性を発揮するかどうかは、統計的科学的にきちんと検証がされていないことが多いのが現状です。
この点について、テクニカル分析に批判的な人は、テクニカル分析はオカルト的であり、後付けの理論にすぎないため役に立たないと批判しています。
そのため、テクニカル分析を利用する場合は、後付けの理論といわれないためにも、トレーダーは自分で過去データをたどったり、実際のトレードで試すなどして優位性を検証していく必要があります。
デメリット2:テクニカル分析の優位性に関する根拠の説明が十分ではない
デメリットの1つ目に少し似ていますが、テクニカル分析では、チャートや指標の優位性(エッジ)の根拠について十分な科学的な説明がされることは少なく、「有効だから、有効だ」というトートロジー(同語反復)的な説明がされがちです。
そのため、テクニカル分析の手法がうまく機能しているときはいいですが、だましが増えてきて負けが多くなってくると、そのテクニカル分析のサインの優位性を信じることができなくなってくるというデメリットがあります。
デメリット3:売買の判断の客観的な基準が示されておらず、トレーダーのセンスが求められるものが多い
テクニカル分析の手法は、完全に客観的なものとはいえず、どうしても主観の要素が入ってくるため、どちらかというとサイエンス(科学)よりは、アート(芸術)に近いといえます。
そのため、人によって売買の判断にばらつきが出てしまい、客観的な分析手法とはなりえないという欠点があります。
データを根拠に客観的に取引を行うシステムトレードの場合、同じ状況であれば誰でも同じ結果になりますが、テクニカル分析の場合は、主観の要素が入ってくるため、同じ結果にはなりません。
そのため、テクニカル分析で成功した人の本を読んでも、同じように成功できるとは限らないということになります。
「テクニカル分析はオカルトだ」といって批判する人は、このテクニカル分析にはアート的な側面がある点を指していっているのだと思われます。
デメリット4:仕掛け(エントリー)のルールに偏っている手法が多い
逆三尊やトライアングルからのブレイクアウトなど多くのテクニカル分析の手法では、仕掛けであるエントリーのルールのみを扱っていることが多々あります。
そのため、場当たり的な裁量トレードほどではありませんが、テクニカル分析ではポジションをもったあとの手仕舞い(エグジット)のルールがシステムトレードほど厳密には決まっていません。
この点、あらかじめ定めたルールを根拠に機械的に売買するシステムトレードは、すべてを数字で表せるよう厳密にルール化するため、手仕舞いのルールも明確です。
一方、テクニカル分析は、特に手仕舞い(エグジット)について、そこまで厳密にはルール化がされておらず、主観的な判断が求められることが多いというのがデメリットだといえます。
デメリット5:心理的なコントロール力が求められる
テクニカル分析は、システムトレードなどのように厳密なルール化がされていないため、主観的な判断が求められます。
そのため、エントリーの正確なタイミングをとったり、ポジションの維持やエグジットの判断をするのに恐怖心などの心理的な影響をコントロールする必要があります。
このようにシステムトレードに比べると、トレードの心理が売買に影響しやすいというのもテクニカル分析にデメリットだといえます。
テクニカル分析に向いた人と役に立たないとされる理由
テクニカル分析には以上のようなメリット・デメリットがあります。
このようなテクニカル分析の特徴から、株式投資やFXでテクニカル分析に向いている人は、サイエンスとアートとメンタルのバランスの取れた人だといえます。
アートのみ(もしくは山師的なアニマル・スピリッツ(≒儲けてやるんだという山っ気)のみ)の人は、裁量トレードが向いています。
サイエンスのみの人が向いているのは、機械的なシステムトレードです。
テクニカル分析に向くのは、サイエンスとアートの両立がはかれる人だといえます。
ただし、テクニカル分析は、デメリットの3つ目でみたようにシステムトレードよりも心理面の負担が大きいことから、メンタルのコントロールを保つことも必要です。
そのため、テクニカル分析には、サイエンスとアートとメンタルのバランスが必要になります。
テクニカル分析は、トレードの入り口としてはとても入りやすいものですが、その高みに至るためにはサイエンス、アート、メンタルそれぞれの要素が高い水準で、高度なバランスが成り立っていることが求められるといえます。
そのため、サイエンスとアートとメンタルのバランスが取れていない人にとっては、テクニカル分析はオカルト的で役に立たない、勝てない手法になってしまうおそれが高いです。
このことが人によってテクニカル分析は役に立たない(意味がない)とされている理由だと思われます。