MMT理論とは何か|経済金融面の評価に対する問題点・批判をわかりやすく解説
経済におけるMMT理論とは
MMT理論とは、英語のModern Monetary Theoryの略であり、日本語では現代貨幣理論と呼ばれます。
アメリカの経済学者であるステファニー・ケルトン教授が提唱する理論です。
MMT理論によれば、通貨発行権を有する国は財政赤字によるインフレをコントールできるため、デフォルト(債務不履行)には陥らないとする理論です。
そのため、国債発行による財政支出の拡大を容認するのがMMT理論になります。
MMT理論は、基軸通貨国であるアメリカや国債の投資家が保有する内国債の割合が高い日本において有効な理論だとMMTの賛成派は主張しています。
MMT理論の根拠

MMT賛成派はなにも無制限・無限定の国債発行による政府支出(財政赤字)の拡大を主張しているわけではありません。
一方で、MMT理論に懐疑的な論者(反対派)も国債(赤字国債)の発行により政府支出をまかなうことをすべて禁止するわけではありません。
結局、争点は財政赤字を国債発行による政府支出の拡大でまかなったとして、いざインフレになったときにそれを適度な水準で維持できるかどうかという点にあります。
この点、定義でも示したように、通貨発行権を有する国は自由に通貨を発行できるため、財政赤字によるインフレをコントロールできるというのがMMTの賛成派の主張です。
これに対して、MMTの反対派はインフレをコントロールできないとして批判しています。
下のリンクはそういったMMT理論への批判に対するMMT賛成派からの反論になります。
リンク先でインフレをコントロールできるとするMMT理論の賛成派が述べている根拠をまとめてみると以下のようになります。
- インフレをコントロールするには増税や歳出削減は不要である。目標インフレ率達成後は、予算規模を前年と同程度にするだけで良い。
- 財政支出の拡大により好景気になれば、所得税の累進課税制度などを通じ景気の自動安定化装置(ビルトインスタビライザー)が働くため、特に増税などの措置をしなくとも過剰なインフレを抑制できる。
- 中央銀行の金利の引き上げにより過度のインフレを抑制することができる。
- 現代の経済はインフレが起きにくい構造になっており、インフレが問題となった1970年代とは状況が異なる。
MMT理論の評価:根拠の妥当性・問題点を検討

以下ではこれらのMMT理論の賛成派の論拠の妥当性を検討してみます。
予算規模を前年と同程度とするのは簡単か?
まず、①の「インフレをコントロールするには増税や歳出削減は不要である。目標インフレ率達成後は、予算規模を前年と同程度にするだけで良い。」という点についてですが、国の歳出で大きな割合を締めている社会保障関係費などは(高齢化のせいで)何もしなくとも毎年必ず増加していきます。
そのため、何も削らずに予算規模を前年度と同程度にすることは不可能です。
その点で、予算規模を前年と同程度にすること自体、(高齢化が進行している状況では)そもそも容易なことではない点を看過しており妥当とはいえません。
たしかに、アベノミクスで日銀が金融政策で行っているような「異次元の」金融政策のような「異次元の」財政出動を行うことで需要を生み出した後で、それをやめることはバラマキをやめるというのと同じ意味ですから、社会保障関係費や地方交付税交付金を削ることよりは簡単だといえます。
ですが、そもそもの話として、バラマキで少子高齢化がもたらしている今の状況から脱することができるのでしょうか。
今の日本経済の問題は循環的な問題ではなく構造的な問題だといわれています。
単にいまが不況だという循環的な問題であれば、バラマキで苦しい時期をしのげば、また幸せな時期である好況期がやってきます。
ですが、財政支出の拡大によるバラマキをしても構造的な問題は残ったままです。
構造的な問題を解決するには仕組み自体を変える必要があります。
仕組みというのは、起業やイノベーション、企業の投資環境、教育の内容や評価、転職(労働市場の流動性)、敗者復活(社会保障)、格差の固定化の回避などのための仕組みのことです。
これらを思い切って変えていく過程でお金が必要になるなら、国債を発行してまかなうことは何も問題ありません。
ですが、MMT理論を背景にやみくもに財政支出を増やしたところで構造的問題は残り続けるわけですから、問題の解決にはつながらないと考えられます。
ビルトインスタビライザーにまかせておけば増税は不要か?
次に、②「財政支出の拡大により好景気になれば、所得税の累進課税制度などを通じ景気の自動安定化装置(ビルトインスタビライザー)が働くため、特に増税などの措置をしなくとも過剰なインフレを抑制できる。」という点についてですが、インフレになったときに所得が増えるのは、良いインフレの場合だけです。
悪いインフレ(インフレかつ所得減というスタグフレーションや原材料費などのコストが高くなることで生じるコストプッシュインフレ)の状況ではビルトインスタビライザーは働きません。
また、たしかにマクロ経済学の理論(ケインズ経済学)によれば財政支出の拡大は国民所得の増加をもたらすはずですが、実際問題として、財政支出の拡大は国民の所得の増加に直結するとは必ずしもいえません。
ビルトインスタビライザーの1つである所得税の累進課税は、個人の所得に課せられる税金です。
この個人の所得である名目賃金と国の政府支出(財政支出)の大きさを比較してみても、財政支出が増えれば名目賃金が増えるといった明確な連動関係は特にみられません。
そういった意味で、財政支出を増やしたとしても、実際に個人の所得が増えるとは限らないため、ビルトインスタビライザーの効果に過度に期待すべきではないと考えられます。
金利の引き上げでインフレを抑制できるか?
では、③の「中央銀行の金利の引き上げにより過度のインフレを抑制することができる。」という点はどうでしょうか。
たとえば、日本よりも金利の高いトルコや南アフリカのインフレ率は日本よりも恒常的に高いといえます。
つまり、金利を高くすればインフレを抑えられるとは限らないわけです。
その点で、金利の引き上げをインフレ抑制の手段として期待するべきではないといえます。
現代ではインフレは問題とはならないか?
また、④「現代の経済はインフレが起きにくい構造になっており、インフレが問題となった1970年代とは状況が異なる。」という点についてですが、この点については正しいといえます。
オイルショックなどでインフレが強く意識された1970年代当時の経済の制約要因はエネルギーでした。
一方で、いまは人口減少による労働供給および総需要の減少こそが一番の問題だといえます。
この総需要の減少により、現代では(財市場の)超過供給状態になりやすく、インフレが起きにくい状態になっています。
ですが、インフレが起きにくい状態ということといざインフレが起きたときにそれをコントロールできるかは別問題です。
そういった意味でインフレが起きにくいからといって、財政規律を緩めることを認めるMMT理論は妥当とはいえないと考えられます。
MMT理論の妥当性(まとめ)

以上から、MMT理論の賛成派はインフレをコントロールできるということをきちんと説明できているとはいえないため、MMT理論にはその妥当性に疑問があるといわざるを得ないと考えられます。
また、もし仮にMMT理論を「良し」としたとしても、それで得られるのは財政出動のお墨付きだけです。
ですが、財政出動では構造的問題は解決できません。
構造的問題を解決するにはお金を「いくら使うか」より「何に使うか」のほうが大切です。
仕組みを変えるための予算にきちんとお金が使われているかをわたしたち国民はチェックしていく必要があるのではないでしょうか。