マクロ経済学におけるタイムラグとビルトインスタビライザーの関係とは
マクロ経済学で学習するタイムラグとビルトインスタビライザーについてわかりやすく説明します。
マクロ経済学におけるタイムラグとは
マクロ経済学で、フリードマンらに代表されるマネタリストの理論としてタイムラグがあります。
タイムラグは、マネタリストがケインズ経済学における裁量的な政策を批判する根拠になるものです。
ここでいうタイムラグというのは、財政政策などを実施する場合に生じるタイムラグ(=時間のズレ)のことを意味します。
たとえば、政府が裁量的に政府支出を増加させても、政府の意思決定に遅れはつきものなので、政府支出を増加させることが、逆に経済にマイナスの影響を与えてしまうおそれがあります。
この政府の意思決定の遅れなどのことをタイムラグといいます。
このタイムラグはマネタリストの理論では、内部ラグと外部ラグの2種類に分類されます。
まず、1つ目のラグである内部ラグは、認知ラグと決定ラグ、実行ラグとさらに3つに分けられます。
認知ラグとは、経済状況の悪化を認知するまでのタイムラグです。
決定ラグとは、政策を決定するまでのタイムラグです。
つまり、意思決定をするのにかかる時間が決定ラグになります。
実行ラグとは、政策を実行するまでのタイムラグです。
これに対し、外部ラグに分類されるタイムラグは効果ラグになります。
効果ラグとは、実行した政策の効果が現れるまでのタイムラグを意味します。
これらのタイムラグがあると、政府支出GやマネーサプライMを増やすといった政策が効果的なタイミングになされず、逆に、経済に対してマイナスの影響を与えてしまうおそれがあります。
そのため、タイムラグは、裁量的な政策を否定して、ルールに基づいて政策を実行するというマネタリストの主張の根拠になっているわけです。
ビルトインスタビライザーには内部ラグがない
これに対して、ビルトインスタビライザーと呼ばれるものには、政策を実施するまでのタイムラグである内部ラグがないといわれています。
ビルトインスタビライザーとは、景気の自動安定化装置のことです。
ビルトインスタビライザーの具体例
ビルトインスタビライザーの具体例は、累進課税や失業保険です。
累進課税は、所得の大きい人ほど、納める税金が大きくなる制度です。
一方で、失業保険は、失業つまり所得が得られない状態の人にお金を給付してあげるという制度になります。
これらのビルトインスタビライザーの具体例である累進課税制度や失業保険がどのように働くのかをみていきます。
累進課税制度
まず、累進課税制度についてです。
累進課税制度は、所得の大きい人からたくさん税金をとる仕組みです。
好況期には、所得の大きい人が増えることになります。
そうすると税金が増えて、増税と同じ働きをすることになり、景気の過熱を抑えることになります。
好況期 ⇒ 所得の大きい人↑ ⇒ 税金↑ ⇒ 景気の過熱を抑える
一方で、不況期には所得の大きい人が減ります。
そのため、税金の額が減ることになります。
これは減税と同じ働きをすることになるため、景気を刺激する働きがあることになります。
不況期 ⇒ 所得の大きい人↓ ⇒ 税金↓ ⇒ 景気を刺激する
失業保険給付
次に、失業保険給付についてです。
好況期には、失業者の数が減ります。
そのため、失業者に対する給付が減ります。
給付は政府支出ですので、政府支出の減少になりますし、給付が減ると給付による所得が減って消費が減ることになります。
その結果、景気の過熱を抑える機能があります。
好況期 ⇒ 失業者の数↓ ⇒ 給付↓ ⇒ 景気の過熱を抑える
一方で、不況期には、失業者が世にあふれ、失業者の数が増えます。
その結果、給付が増え、政府支出の増加や給付による所得の増加に伴う消費の増加が生じます。
その結果、景気を刺激する働きをすることになります。
不況期 ⇒ 失業者の数↑ ⇒ 給付↑ ⇒ 景気を刺激する
以上のように、これらの制度は景気がいい方向にも、悪い方向にも行き過ぎるのを防ぐ役割を果たすことになるので、景気の安定化に役立つことになります。
そして、これらの制度は公共や不況になると自動的に働くことから、景気の自動安定化装置と呼ばれます。
このように、ビルトインスタビライザーは自動的に働きますから、政策を実施するまでの認知・決定・実行というタイムラグがないことになります。
ですから、ビルトインスタビライザーには政策を実施するまでのタイムラグである内部ラグがないということがいえるわけです。
ビルトインスタビライザーについては以上になります。