株チャートの首吊り線の検証、逆張り・順張り?高値圏・安値圏どっちが良い?

株式投資

株のローソク足チャートにおける首吊り線(首つり線)の意味は?

首吊り線(首つり線)とは、別名カラカサともいわれ、株やFXのローソク足における足型の1つです。

一般に、高値圏の首吊り線は売りのサインだとされます。

株の首吊り線のチャート

有名な罫線(チャート、グラフ)についての解説書である「酒田五法は風林火山」によれば、株の売りのサインとなる首吊り線の条件は以下のように示されています。

首吊り線の条件

  • 上放れて寄り付くこと
  • 下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上あること
  • 高値引けすること

酒田五法は風林火山より引用・要約・抜粋

株のローソク足チャートで首吊り線が出現(示現)した場合、ここを新規に買っては首吊りものとされています。

株の首吊り線の条件

では、この罫線チャートにおける首吊り線の成立が本当に株の売りサインといえるのか、それとも騙し(だまし)のサインであり本当は買うべきなのかをデータで検証してみます。

首吊り線の条件の数式化

検証に際し、首吊り線の条件を数式であらわしてみます。

まず、「上放れて寄り付く」の部分は

  • 始値が前日の高値よりも高いこと

と定義できます。(前日の高値ではなく前日の終値とすることもできますがここではより厳しく高値とします)

そして、首吊り線の条件の中心部分である「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上あること」という条件は

  • 実線を終値-始値とする
  • 下影を始値-安値とする
  • 始値-安値>=(終値-始値)✕3であること

とします。

また、「高値引けすること」という条件から、首吊り線は「陽線」であり、終値>始値になります。

高値引けは、引値(終値)が高値と一致することですが、今回の検証対象は日経平均株価という株価指数なので、完全に一致することはかなり少なくなります。

そのため、終値と高値の差が日経225ミニ先物などの呼び値である5円以内であることとします。

  • 高値-終値<=5

として考えます。

首吊り線の検証(首吊り線はダマシのサインか?)

では、以上の条件をもとに、首吊り線が形成された場合、その後の株価がどうなるかを検証します。

まずは上記条件のうち、高値引けの条件を除いた、「上放れて寄り付く」と「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上あること」「陽線」の3つにしぼって検証してみます。

首吊り線の検証1:日本株での首吊り線の検証

日経平均株価で上記の首吊り線の成立条件を満たしたときに、翌日の始値で新規に売りまたは買いを行った場合の売買成績(勝率・損益)は以下のようになりました。

買いの売買成績

 3日後5日後10日後15日後20日後
総損益-10%-41%-23%-13%-41%
総取引数110110110110110
平均損益-0.1%-0.4%-0.2%-0.1%-0.4%
勝率52%46%48%49%48%
プロフィットファクター0.90.70.90.90.8
最大ドローダウン-24%-46%-47%-52%-82%

検証結果によると買いの成績はすべての日数で総損益がマイナスとなっており、やはり首吊り線は騙し(だまし)のサインではなく、売りから入るのが正解だといえそうです。

売りの売買成績

 3日後5日後10日後15日後20日後
総損益10%41%23%13%41%
総取引数110110110110110
平均損益0.1%0.4%0.2%0.1%0.4%
勝率48%54%52%51%52%
プロフィットファクター1.11.41.21.11.2
最大ドローダウン-13%-12%-20%-50%-60%

検証結果によれば、売りからエントリーし、5日後に手仕舞いする(買い戻す)のが総損益、プロフィットファクター、最大ドローダウンの点から最も良さそうです。

首吊り線の検証2:下ヒゲの長さの条件を変える

この5日後に買い戻すというシグナルをベースにもう少し条件を変えてみます。

「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上あること」という条件を4倍以上に変更した場合、どうなるかを検証します。

総損益43%
総取引数81
平均損益0.5%
勝率57%
プロフィットファクター1.7
最大ドローダウン-10%

総損益はそれほど変わりませんが、勝率、プロフィットファクター、最大ドローダウンが3倍のときよりも改善しています。

首吊り線の検証3:高値引けという条件を追加する

「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上あること」という条件に戻して、残っている条件である「高値引けである」という条件を追加してみます。

総損益2%
総取引数10
平均損益0.2%
勝率70%
プロフィットファクター1.2
最大ドローダウン-4%

勝率は改善しましたがそれ以外の成績が悪化しています。高値引けという条件を加えて売ると騙し(だまし)になってしまいます。

首吊り線の検証4:下ヒゲが上ヒゲよりも長いという条件を追加する

「高値引け」という条件ではなく、下ヒゲ(下影)が上ヒゲよりも長いという条件に変更し、条件を少し緩和して検証してみます。

総損益38%
総取引数70
平均損益0.5%
勝率56%
プロフィットファクター1.7
最大ドローダウン-12%

もとの検証1よりは改善していますが、検証2(下ヒゲの長さが実体の4倍)と同じような成績だといえます。

首吊り線の検証5:成績の良かった条件を組み合わせる

「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の4倍以上ある」という条件と「下ヒゲ(下影)が上ヒゲよりも長い」という条件を同時に検証してみます。

総損益26%
総取引数53
平均損益0.5%
勝率55%
プロフィットファクター1.6
最大ドローダウン-13%

単純に総取引数が減った分、総損益が減少してしまっています。

以上が株チャートの首吊り線の検証結果です。

成績だけでいえば検証2の「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の4倍以上ある」という条件が良いようです。

高値圏の首吊り線の検証

次に、首吊り線が成立したときの株価の相対的な位置によって売買成績がどうなるかを検証します。

酒田五法は風林火山」によれば、首吊り線は「高値波乱」の形とされ、高値圏で成立することが条件だといえます。

高値圏の首吊り線の検証:高値圏の条件の数式化と検証

「高値圏にあること」の条件として以下のように定義します。

  • 終値が過去20日の最高値であること

この条件と「上放れて寄り付く」「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上ある」「陽線」の条件を満たす売買成績は以下のようになります。

サイン成立後の翌日寄付で仕掛け、5日後の寄付で手仕舞いします。

総損益-6%
総取引数44
平均損益-0.1%
勝率45%
プロフィットファクター0.9
最大ドローダウン-18%

どうやら首吊り線の「高値圏にあること」という条件は騙し(だまし)となってしまう可能性が高いようです。

底値付近における安値圏の首吊り線の検証:安値圏の条件の数式化と検証

では逆に「高値圏にあること」の反対の条件でも検証してみます。

単純に反対の条件にするなら

  • 終値が過去20日の最安値であること

となりますが、高寄り後の陽線となる当日の終値は最安値とはならないため、それでは条件が成立しません。

なるべく多くの首吊り線のサインを含むようにするためにここでは

  • 終値が20日前の終値よりも安いこと

という「底値付近の安値圏にある」というよりは「高値圏にない」という程度のモメンタムによる緩めの条件で検証してみます。

この条件と「上放れて寄り付く」「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上ある」「陽線」の条件を満たす売買成績は以下のようになります。

総損益37%
総取引数39
平均損益0.9%
勝率64%
プロフィットファクター2.4
最大ドローダウン-9%

プロフィットファクター、最大ドローダウンでかなり成績が改善しています。

「高値圏にない」位置で成立した首吊り線は売りのサインとして有用といえそうです。

首吊り線の「高寄りする」という条件を再検討する

首吊り線には「高寄りすること」という条件がありますが、「酒田五法は風林火山」に示されているチャートの例では、前日までの3本のローソク足の最高値を上回る形で高寄りしています。

また、同じく罫線チャートの足型について解説している「罫線の法則」(鏑木繁、投資日報社(出版社でも品切れのようです))のチャートの例でも前日までの5本の足の最高値を上回っています。

そこで、「高寄りする」という条件をこれらのチャートの例に合致する形で確認してみます。

高寄りした首吊り線の検証:高寄りの条件の数式化と検証

いままでは「高寄りすること」の条件として以下のように定義してきました。

  • 始値が前日の終値よりも高いこと

ここでは「強い高寄り」の条件として以下のように定義します。

  • 始値が過去5日の高値よりも高いこと

この条件と「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上ある」「陽線」の条件を満たす売買成績は以下のようになります。

総損益6%
総取引数58
平均損益0.1%
勝率50%
プロフィットファクター1.1
最大ドローダウン-10%

非常に成績が悪化していますね。

高寄りした首吊り線の検証:高寄りの条件の数式化と検証

ひょっとするとこの「強い高寄り」の条件は買いトレードに有利なのかもしれません。

そこで、この「強い高寄り」の条件と売りでは不利に働いた「高値圏にあること」を加えて検証してみます。

その他の条件は「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の3倍以上ある」「陽線」です。

これらの条件を満たす売買成績は以下のようになります。

買いの売買成績

 3日後5日後10日後15日後20日後
総損益23%25%19%35%3%
総取引数3535353535
平均損益0.6%0.7%0.6%1.0%0.1%
勝率77%63%54%66%60%
プロフィットファクター4.23.21.61.91.0
最大ドローダウン-4%-3%-10%-10%-29%

検証結果によると買いの成績はすべての日数で総損益がプラスとなっており、この条件のもとでは首吊り線は騙し(だまし)のサインとなることがわかります。

騙し(だまし)のサインというより売りとは逆の買いサインとして十分機能しうる成績だといえます。

売りの売買成績

 3日後5日後10日後15日後20日後
総損益-23%-25%-19%-35%-3%
総取引数3535353535
平均損益-0.6%-0.7%-0.6%-1.0%-0.1%
勝率23%37%46%34%40%
プロフィットファクター0.20.30.60.51.0
最大ドローダウン-23%-27%-20%-35%-28%

当然ながら売りからのエントリーでは総損益はすべてマイナスとなります。

以上から「高寄り」の条件を厳しくした場合、首吊り線のサインは騙し(だまし)もしくは売りとは逆の買いのサインとして機能する可能性が高そうです。

(まとめ)株チャートの首吊り線の売買戦略

ではこれまでのまとめとして、騙し(だまし)ではない売りのルールとして株チャートの首吊り線の売買ルールを考えてみます。

ここまでで有効だった売りの条件は「上放れて寄り付く」「下影(下ヒゲ)が実線(実体部分)の4倍以上ある」「陽線」です。

また、「強い高寄り」の条件は買いに有利となることから、「強い高寄り」条件を満たさないことをフィルターとして加えます。

  • 始値が過去5日の高値よりも高くないこと

このフィルターを含めた4つの条件を満たす売買成績は以下のようになります。

サイン成立後の翌日寄付で仕掛け、5日後の寄付で手仕舞いします。

総損益51%
総取引数45
平均損益1.1%
勝率62%
プロフィットファクター2.6
最大ドローダウン-8%

複数の売りのサインの1つとしてなら考慮に入れても良い成績だといえます。

そして、上で見たように「強い高寄り」の条件を満たす場合は首吊り線は一転買いのサインとして機能する可能性があります。

そのため、首吊り線がチャートで現れたときはこれまでの高値に注目し、それを上回る形で寄り付いたかどうかで買いからエントリーするか、もしくは逆に売りからエントリーするかを判断するのが良さそうです。