株の上放れ「並び赤」買いの検証|酒田五法でみる罫線チャートの見方

システムトレード

並び赤(上放れ並び赤)とは

並び赤(ならびあか)とは、ローソク足チャートで株価が日中に値上がりしたことを示す陽線が2日連続して横に並んだ状態をいいます。

並び赤(上位)

有名な罫線(チャート、グラフ)についての解説書である「酒田五法は風林火山」によれば、株の買いのサインとなる上放れの(うわばなれの)(上位の)並び赤の条件は以下のように示されています。

並び赤の条件

  • 小さい線(実体)が連続してジリ高の動きをみせていること
  • 上放れ後、ほぼ同等の二本の赤線(陽線)が仲良く並ぶこと
  • その翌日、上寄りすること

酒田五法は風林火山より引用・要約・抜粋

ローソク足チャートで上放れた二本の赤線(陽線)からなる上放れ並び赤の出現は、「もっとも強い(もっとも強し)」とされ強力な買いサインであるといわれています。

典型的な並び赤のチャート

日経平均株価の2012年12月に並び赤が成立したときのグラフです。

並び赤のサインが出てから日経平均株価は上昇しています。

並び赤の条件の数式化

では、この罫線チャートにおける並び赤の成立が本当に株の買いサインといえるのかをデータで検証してみます。

検証に際し、並び赤の条件を数式であらわしてみます。

まず、「小さい線(実体)が連続してジリ高の動きをみせている」の部分は

  • 並び赤となる2連続陽線の直前の終値が過去6日間の最高値である

とします。

6日間としているのは、「酒田五法は風林火山」の例が6日だからという単純な理由です。

次に、「上放れ後」の部分は

  • 並び赤となる2連続陽線の1本目の足の安値はその直前の足の高値よりも高い

と定義できます。

そして、並び赤の条件の中心部分である「ほぼ同等の二本の赤線(陽線)が仲良く並ぶこと」という条件は

  • 2連続の陽線である
  • 1本目の陽線の終値は2本目の陽線の始値よりも高い
  • 2本目の陽線の終値は1本目の陽線の始値よりも高い

とします。

2つ目と3つ目の条件は「仲良く並ぶ」という部分を数式的に表現しています。

(もちろん「実体部分の乖離が何%以下」というようにもっと厳しく定義づけすることもできますが、ここでは上記のようなゆるめの条件にしています。)

最後の「その翌日、上寄りする」の部分は、

  • 1日前の始値は(並び赤の2本目の足にあたる)2日前の終値よりも高い

とします。

並び赤の検証(上放れ並び赤のダマシに注意)

では、以上の条件をもとに、上放れの並び赤が形成された場合、その後の株価がどうなるかを検証します。

上放れ並び赤もダマシになり、並び赤の付近で天井をつけることがあるためその回避法を検討します。

並び赤の検証1:日本株での並び赤の検証

日経平均株価で上記の並び赤の条件を満たしたときに、翌日の始値で新規に買いを行った場合の売買成績(勝率・損益)は以下のようになりました。

 3日後5日後10日後15日後20日後
総損益1%2%3%16%5%
総取引数1616161616
平均損益0.1%0.1%0.2%1.0%0.3%
勝率56%56%75%63%69%
プロフィットファクター1.11.11.11.71.2
最大ドローダウン-11%-15%-25%-18%-27%

検証結果によると15日後に売却するという戦略が利益の上ではもっとも優れているといえます。

並び赤の検証2:当日に仕掛ける

この15日後に売却するというシグナルをベースにもう少し条件を変えてみます。

上寄り(高寄り)した当日に仕掛けた場合、どうなるかを検証します。

総損益20%
総取引数16
平均損益1.3%
勝率69%
プロフィットファクター1.9
最大ドローダウン-17%

総損益は約20%と改善しています。

なお、高寄りした当日に仕掛ける場合は、

  1. 8時45分からスタートする先物の値段を参考に9時の寄付でETFを買う
  2. 米国市場に上場している日経平均先物の価格が前日の日本の日経平均先物価格よりも高ければ高寄りとみなす

などの方法があります。

並び赤の検証3:ジリ高以外は見送る

この検証2での最大ドローダウン17%は、2013年の5月に15%もの大負けをしていることが原因です。

上のローソク足のグラフの矢印は、2013年の5月のサインは2012年の8,000円台の最安値から15,000円台に日経平均が上昇する中長期の上昇トレンドのピークの天井付近で示現したサインを意味しています。

このような最高値付近で出たサインは並び赤の条件である「ジリ高の動きをみせている」から逸脱していると考えられます。

そこで、ジリ高以外は見送り、上昇局面のピーク付近を避けるため、以下の条件をつけたしてみます。

  • 並び赤の直前の終値の過去200日間の高値と安値に対する相対的な位置が下から90%未満の位置にあること

この条件を数式としてあらわすと、

  • (並び赤の直前の終値-過去200日間の安値)÷(過去200日間の高値-過去200日間の安値)<0.9

となります。

この条件を加えた売買条件の検証結果(勝率・利益)は以下のようになります。

総損益31%
総取引数8
平均損益3.9%
勝率88%
プロフィットファクター29.2
最大ドローダウン-1%

プロフィットファクターが29、1回あたりの平均損益が3.9%と大幅に改善しています。

これで十分実用に足りるものとなりましたが、相対位置の閾値(しきいち)を90%以外にも95%と98%で確認してみます。

まず、終値の相対位置の閾値が95%の場合は、

総損益39%
総取引数9
平均損益4.3%
勝率89%
プロフィットファクター36.1
最大ドローダウン-1%

となります。

次に、終値の相対位置の閾値が98%の場合は、

総損益39%
総取引数11
平均損益3.5%
勝率82%
プロフィットファクター28.5
最大ドローダウン-1%

となりました。

あまり閾値が高いとダマシのサインが入る可能性が高くなるので、閾値としては95%を採用するのがよさそうです。

なお、閾値が95%の場合と同一の条件で、高寄りの当日ではなく、翌日に仕掛けをした場合の売買成績は以下のようになりました。

総損益34%
総取引数9
平均損益3.8%
勝率89%
プロフィットファクター32.9
最大ドローダウン-1%

総損益、プロフィットファクターはやや低下していますが、こちらも十分実用にたえると思われます。

ただし、シグナルの総数が9というのは、売買成績そのものの信頼性を損なう数字です。

通常なら少なくとも20以上の総取引数がないと統計的な有意性が得られないと経験的には考えられます。

ですが、今回は酒田五法という歴史の洗礼を受けた伝統的な手法なので、このような少ないサンプル数でも実トレードを行う価値はあると考えられます。

並び赤(?)の検証4:高寄り後の株価の騰落で場合分け

今度は厳密には並び赤とはいえないかもしれませんが、検証2、検証3とは見方を変えて、並び赤以前にジリ高であるという条件をはずし、検証1と同じように並び赤後の高寄りの翌日に仕掛けてみます。

そうすると、15日後に手仕舞いした場合の売買成績は

総損益15%
総取引数40
平均損益0.4%
勝率55%
プロフィットファクター1.2
最大ドローダウン-17%

となり、当たり前ですがあまりよくない状態になります。

もとの検証1でのジリ高+翌日仕掛けの成績が

総損益16%
総取引数16
平均損益1.0%
勝率63%
プロフィットファクター1.7
最大ドローダウン-18%

でしたので、それよりも少しだけ売買成績が悪化している状態です。

この状態から、高寄り後の株価が陽線で終わる場合と、陰線で終わる場合に分けて検証してみます。

まず、並び赤後の高寄りでその足が陽線となる場合の売買成績は、

総損益-34%
総取引数18
平均損益-1.9%
勝率39%
プロフィットファクター0.4
最大ドローダウン-41%

となりました。

並び赤後の陽線は非常に大きなマイナスのバイアスがかかることがわかります。

これをブラッシュアップして、売りのサインとするのも面白そうです。

積極的に売りのサインとしなくても、並び赤後の陽線は買いにとっては危険サインと覚えておいて損はないと思われます。

一方で、並び赤後の高寄りでその足が陰線となる場合の売買成績は、

総損益49%
総取引数22
平均損益2.2%
勝率68%
プロフィットファクター3.4
最大ドローダウン-7%

となります。

総損益は大きい一方、最大ドローダウンは7%とそれほど大きくありませんし、平均損益は2.2%とこれまた面白い成績になっています。

以上がローソク足チャートにおいて「最も強し」とされる並び赤の売買成績の検証結果になります。