経営学とは|経営学と会計学との違い|公務員、公認会計士などの資格試験と経営学
経営学とは何か:経営学の定義
経営学とは、会社の経営に関する学問だと定義できます。
本当は経営学の守備範囲は、会社だけでなく、NPOなどの非営利組織や政府機関の運営についてもその対象としています。
ですが、大学の勉強や公務員試験や公認会計士試験、経営学検定などの資格試験では、会社の経営についてだけ学ぶことが多いです。
さて、経営学の定義は、会社の経営について勉強する学問だといえますが、これをもう少しだけ硬くいうと、経営学とは、最も効果的な会社の運営とは何かを考える学問だといえます。
この効果的な会社の運営というのは何かというと、「利益だけじゃないんだよ」ということです。
利益は利益で達成目標としては大事なんですが、利益だけではなくて、従業員のやる気(これを経営学ではモチベーションといいます)や企業の社会的責任などを含むものなんだということです。
経営学と会計学、経済学、会社法との違い
では、ここで経営学と他の会社についての学問である会計学、経済学、会社法と比較することで経営学の立ち位置を明確にしてみましょう。
経営学と会計学の違い
まずは経営学と会計学の違いについてです。
会計学とは、会社の成績表である決算書についての学問です。この決算書のことを会計学では財務諸表といいます。
この財務諸表で計算される利益をいかに正しく計算するかが会計学では重視されます。
これを利益の適正性とか、適正な期間損益計算といったりします。
これに対し、利益だけではなく効果的な会社の運営を行うために必要な組織や戦略や販売の方法などを考えていくのが経営学になります。
つまり、戦略や組織、リーダーシップといった会社の経営全体を考えるのが経営学なのに対し、会社経営の成績を示す決算書(財務諸表)の作り方やあるべき論を勉強するのが会計学だといえます。これが経営学と会計学の違いになります。
経営学と会計学に共通する部分
なお、経営学の中には経理部や財務部の仕事である経理・会計(アカウンティング)や財務(ファイナンス)といった領域を含んでいます。これらはまさに会計学の守備範囲です。(経理・会計(アカウンティング)というのが簿記や決算書についての範囲で、財務(ファイナンス)というのが資金調達や資金の運用などに関する範囲です。)
ですから、イメージとしては経営学の中の一部に会計学の基礎的な知識が含まれているといえます。
もちろん、会計学の中には決算書である財務諸表に関する細かな知識もあるため、完全に会計学は経営学の一部で、経営学が会計学を包摂しているわけではありません。経営学と会計学は部分的に重複する分野があるんだと理解しておきます。
経営学と会計学の重複部分の資格試験における扱い
この経営学と会計学に共通する重複部分というのは決算書(財務諸表の基礎知識)や損益分岐点分析などの経営分析、割引計算などによる設備投資の経済性計算(投資の決定)といった分野になります。
資格試験ではこれらの分野が経営学として出題されるか、会計学として出題されるかは、試験によって違います。
公認会計士試験では、もっぱらこの重複部分は会計学(財務諸表論や内部会計としての原価計算)として出題されます。
財務専門官や国税専門官などの公務員試験では、会計学・経営学の両方の科目で出題実績があります。
中小企業診断士試験では、財務会計という科目でまさにこの重複分野を中心に出題がされます。
経営学と経済学の違い
次に、経営学と経済学の違いについてです。
経済学は有限の資源をいかに効率よく利用するかを考える効率性を追求する学問です。
そのため、経済学における企業は、基本的に効率的な企業運営の結果である利益(利潤)の大きさだけを考えている点で経営学の想定する企業とは異なっています。
経済学において、企業のことを生産者といいますが、生産者は利益(利潤)を最大にするために、商品である財を生産します。
このように経済学では企業は利潤を最大にするために行動しています。
一方、経営学でも利益は利益で大事ですが、どちらかというとそれを達成するための手段の方である組織とか、リーダーシップとか、戦略に重点を置いています。
その点で、経営学は会社の経営について、現実に即してどちらかいうと(目的よりも手段の方を)広く浅く勉強するようなイメージになります。
ですから、経営と経済の違いは、企業の最終目標である利益(利潤)を重視して、そこに至る手段はどちらかというとあまり考えないのが経済学で利益よりも手段である戦略や組織を重視するのが経営学という位置づけになります。
経営学と会社法(法学)の違い
会社法は、会社について規定している法律であって、経営学のテキストなどでも企業形態論、経営法務といった分野で一部でてきたりします。
そういった意味で、経営学と一部でかぶっているんですが、会社法というのは会社を取り巻く多くの利害関係者の中で、特に債権者の保護を目的にした法律です。
会社法、そしてもっと大きく法学という学問は、たとえばAさんとBさんという人たちがいたときに、両方の利益のバランスをとることを目的にしています。これを利益衡量といったり、公平性といったりします。
この公平性の追求が、法学の目的です。
そして、会社の場合、会社と債権者という2人の当事者では、その会社についての情報を当然会社の方が多く知っています。
一方、債権者は会社ほどは相手の会社のことを知りません。これを経済学的に情報の非対称性が存在するといいます。
このような情報の非対称性が存在する場合、情報を知らない(情報弱者である)債権者を保護することが、公平に役立つといえるため、会社法は債権者保護を目的としています。
これに対し、経営学は、会社と債権者だけでなく、株主や従業員、取引先、顧客や地位域住民など会社を取り巻く利害関係者全体の利益のバランスを考えます。これらの利害関係者の中で誰の利益を特に重視していくのかを考えることを経営学ではコーポレート・ガバナンスといいます。
経営学の体系
経営学には、①企業形態論、②経営管理論、③経営組織論、④経営戦略論、⑤財務管理、⑥マーケティング、⑦マーチャンダイジング、⑧人事労務管理、⑨生産管理、⑩経営法務、⑪経営情報システムなどの分野があります。
これらを大きく分けると、①から④(企業形態論、経営管理論、経営組織論、経営戦略論)までがいわゆる総論で、⑤から⑪(財務管理、マーケティング、マーチャンダイジング、人事労務管理、生産管理、経営法務、経営情報システム)までが各論になります。
後半の各論は、営業部や人事部、経理部といった会社の部門ごとに何をしているのかとか、何をすべきかを考える部分になります。
たとえば、営業部の話を考えるのがマーケティングになりますし、人事部だったら人事労務管理、経理部だったら財務管理というイメージになります。
以下に簡単にそれぞれの分野について説明します。
①企業形態論は、会社の分類に関する理論です。株式会社や合同会社などの会社形態、カルテルやトラストなどの企業結合、ベンチャー企業、コーポレート・ガバナンスなどについて学びます。
②経営管理論は、会社の管理の方法に関する理論です。テイラーの科学的管理法やモチベーション理論などについて学習します。
③経営組織論は、会社という組織の枠組みに関する理論です。バーナードの組織論、職能別部門組織や事業部制組織などの経営組織の形態について学びます。
④経営戦略論は、戦略という会社の方向性の決め方に関する理論です。M&Aによる多角化戦略やPPM、ポーターの競争戦略などを学びます。
⑤財務管理は、会社の資金に関する理論です。会計学と一部重複する分野であり、財務部が担当する財務(ファイナンス)と経理部が担当する会計(アカウンティング)について勉強します。
⑥マーケティングは、販売管理ともいわれ、広告宣伝など商品の販売に関する理論です。部門としては営業部やマーケテイング部、広報部、広告宣伝部などが担当する分野になります。担当する部署の多さからもわかるように各論の中では重要な分野になります。
⑦マーチャンダイジングは、仕入管理ともいわれ、商品や原材料・部品の調達に関する理論です。マーチャンダイジングは、マーケティングと対をなす分野であり、部門としては購買部や資材調達部などが担当します。
⑧人事労務管理は、従業員の動機づけ(モチベーションのアップ)、賃金など人に関する理論です。部門としては人事部などが担当します。
⑨生産管理は、工場におけるものづくりに関する理論です。生産方式や工場のレイアウトなどについて学習します。
⑩経営法務は、会社法(商法)、特許法、実用新案法などに関する理論です。会社法(商法)の分野では株式会社の設立や株式の発行、会社法(商法)の改正の歴史などについて学習します。
⑪経営情報システムは、コンピュータを利用した経営システムに関する理論です。コンピュータの仕組みや暗号の方式、eコマースの形態などについて学習します。
なお、このほかに経営に関する歴史的な話として経営史・経営事情という分野もあります。
以上が経営学の全体像です。
経営学を学ぶ資格=公認会計士、公務員、経営学検定、中小企業診断士、販売士、ビジネス実務法務検定
経営学はMBA(経営学修士号)という形や学士レベルで大学でも学ばれていますが、資格試験においても多くの資格で出題されています。
ここでは、経営学を学ぶ資格として、公認会計士、公務員、経営学検定、中小企業診断士、販売士、ビジネス実務法務検定について紹介します。
公認会計士試験の経営学
公認会計士は上場企業などに対し独立の第三者として監査に当たる会計監査人になるために必要な資格です。
必須科目ではなく選択科目の1つとして経営学を選択できますが、事実上ほとんどの人が選択しています。
試験は択一ではなく、記述式の試験ですので、総論から、中でも経営組織論、経営戦略論などからの出題が多くなります。
勉強法としては、まずはキーワードを覚えてそれを文章化できるように練習します。
公務員試験の経営学(国税専門官、財務専門官、国家一般職、地方上級(東京都庁)など)
公務員試験の試験種の一つである専門官試験(国税専門官、財務専門官)や国家一般職などで経営学が出題されます。
経営学は選択科目であり、主要科目ではありませんが、多くの人が選択しています。財務専門官、国税専門官といった専門官試験ではほとんどの人が選択するため、ほぼ必須科目といえます。
これに対し、国家一般職では経営学を選択しなくても行政学などで受験することが可能であるため、オプション的な性格が強くなります。
公務員の経営学ではマーチャンダイジングはあまり出ません。代わりに、経営の歴史として経営史・経営事情などが出題されます。また、経営情報システムは技術的なことは出題されません。
試験は原則、択一式ですので、キーワードを覚えて過去問題集にあたるようにします。
経営学検定試験
経営学検定試験は、マネジメント検定ともいい、経営に関する知識や能力が一定の水準に達していることを資格として認定する検定試験です。
経営学検定には、初級、中級、上級の3つのレベルがあり、それぞれ新人・若手、ミドルマネジメント、トップマネジメントに対応しています。
中小企業診断士試験
中小企業診断士という資格は、経営コンサルタントについての国家資格ですが、中小企業診断士の試験では経営学についての科目が多く出題されます。
中小企業診断士の試験(1次試験)では、ⅰ)企業経営理論、ⅱ)財務・会計、ⅲ)運営管理、ⅳ)経営情報システム、ⅴ)経済学・経済政策、ⅵ)経営法務、ⅶ)中小企業経営・中小企業政策という7科目が出題されます。
このうち、ⅰ)の企業経営理論では、経営組織論、経営戦略論、マーケティングを主に勉強します。
また、ⅱ)の財務・会計は財務管理に相当します。
そして、ⅲ)の運営管理は、マーチャンダイジングと生産管理にあたります。
次に、ⅳ)の経営情報システムは同じ名前の経営情報システムの内容を学びます。
一方、ⅴ)の経済学・経済政策はこれは経済学からの出題になりますので、これは経営学からの出題ではありません。
あと、ⅵ)の経営法務は、同じ名前の経営法務とあと企業形態論も内容的には会社法の話が多いため、経営法務として出題されます。
最後のⅶ)中小企業経営・中小企業政策は、中小企業庁の発行する「中小企業白書」の学習が中心になる科目ですので、少し経営学からは外れます。
販売士試験
販売士は、小売店などの販売員に必要な知識を学ぶ資格です。
そのため、販売に必要な分野であるマーケティングやマーチャンダイジングについて主に勉強します。
ビジネス実務法務検定試験
ビジネス実務法務検定は略してビジ法ともよばれますが、経営法務を中心として学ぶ資格です。