イノベーションとは何か|定義と事例(具体例)、生産性のジレンマ
イノベーションとは何かをわかりやすく解説
イノベーション(Innovation)とは、わかりやすくいえば技術革新のことを意味します。
たとえば、大きなイノベーションの事例(具体例)は、インターネットの発明や車の発明になります。
これに対し、小さなイノベーションの事例(具体例)は、車の燃費がよくなるだとか、パソコンのCPUが早くなるとか、スマホの画面が大きくなるなどです。
イノベーションの定義
このイノベーションについて定義しているのが、経済学者のシュンペーターです。
シュンペーターは、経済発展は(経済から自発的に生まれる)内発的なものであって、非連続的な変化であるとした上で、経済発展の原動力は技術革新(イノベーション)であるとしました。
どういう意味かというと、経済発展は経済の中から生まれるものだけれど、たとえばこのシュンペーターのいう経済発展をGDPの成長だとすると、GDPの成長のグラフというのは、連続的に右上がりに一直線に伸びていくのではないよということです。
仮に経済の発展が連続的なものだとするとそのグラフはこのようなイメージになります。
これに対して、非連続的な成長というのはどういうものかというと、下の図のように停滞期があって、その後ドッカーンと経済が成長し、また停滞期があって、ドッカーンとなるというのが交互に繰り返されるようなイメージになります。
そして、このドッカーンと成長する原動力になるものがイノベーションなんだとシュンペーターさんはいっているわけです。
シュンペーターによるイノベーションの定義では、イノベーションは経営資源の「新結合」であるとされます。
つまり、ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源を新しく結びつけることがイノベーションだとし、具体例として、新商品の生産や産業の再組織化などを挙げています。
イノベーションの分類
このイノベーションはいくつかのグループに分類できます。
プロセスイノベーションとプロダクトイノベーション
まず、イノベーションは、プロセスイノベーションとプロダクトイノベーションというものに分類できます。
プロセスイノベーション(=工程イノベーション)
まず、既存の工程や技術を改良するイノベーションがプロセスイノベーションになります。
プロセスというのは、工程という意味なので、プロセスイノベーションのことを工程イノベーションともいいます。
プロダクトイノベーション(=製品イノベーション)
一方、プロダクトイノベーションは、製品イノベーションです。
まったく新しい製品を開発するイノベーションが、プロダクトイノベーションの意味になります。
ですから、イノベーションの度合いでいうと、プロダクトイノベーションの方がより大きなイノベーションということになります。
インクリメンタルイノベーションとラディカルイノベーション
また、イノベーションは別の分類として、インクリメンタルイノベーションとラディカルイノベーションの2つに分類できます。
インクリメンタルイノベーション(=漸進的イノベーション)と事例
インクリメンタルというのは、少しずつ進めていくという漸進(ぜんしん)的なという意味なので、漸進的イノベーションともいいます。
細かな改良を積み重ねる(少しずつ進めていく)漸進的なイノベーションがインクリメンタルイノベーションになります。
ですので、インクリメンタルイノベーションの事例(具体例)は トヨタ自動車のカイゼンにより車の燃費が良くなるとか、CPUの速度が以前よりも少しだけ速くなるなどが挙げられます。
インクリメンタルイノベーションの事例
- 車の燃費が良くなる
- CPUの速度が早くなる
- スマートフォンの画面が大きくなる など
さきほどのプロセスイノベーションとプロダクトイノベーションの分類でいうと、プロセスイノベーションは工程をチマチマと改良して少しずつ進めていくイノベーションなので、プロセスイノベーションは多くの場合、インクリメンタルイノベーションであるとされます。
ラディカルイノベーション(=根本的イノベーション)と事例
一方で、ラディカルという英語は根本的なという意味なので、ラディカルイノベーションのことを根本的イノベーションともいいます。
従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす根本的なイノベーションがラディカルイノベーションです。
ラディカルイノベーションの事例(具体例)としては、馬車に対する自動車の発明だとか、手紙やはがきに対する電子メールの発明などがあります。
ラディカルイノベーションの事例
- 馬車に対する自動車の発明
- 手紙・はがきに対する電子メールの発明
- ガス灯に対する電灯の発明 など
さきほどの中でプロダクトイノベーションはまったく新しい新製品を開発するイノベーションなので、プロダクトイノベーションは多くの場合、ラディカルイノベーションになります。
ですから、ラディカルイノベーションの方がより大きなイノベーションということになります。
製品ライフサイクルとイノベーションとの関係
製品ライフサイクルとは、製品が市場に投入され、廃棄されるまでのライフサイクルのことです。
この製品ライフサイクルは、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階に分けられます。
- 導入期:新製品を初めて市場に投入する時期
- 成長期:製品が消費者に認知され,市場に浸透してくる時期
- 成熟期:製品が市場に浸透し、需要が一段落する時期
- 衰退期:需要が減少していく時期
この製品ライフサイクルのそれぞれの時期にどんなイノベーションが生じるのかをみてみます。
なお、アバナシーは産業の発展段階として、流動期、移行期、固定期と3つに分類し、それぞれの段階とイノベーションの関係について論じています。
理解としては、製品ライフサイクルの導入期が流動期にあたり、成長期が移行期、成熟期が固定期にあたると考えておけばだいたい大丈夫です。
以下の議論は基本的にアバナシーの理論をもとにしていますが、ここではよりメジャーな製品ライフサイクル仮説をもとに話を進めます。
まず、導入期(≒流動期)には、プロダクトイノベーションが多く生じるとされます。
導入期は製品を初めて市場に投入する時期であり、そのためには人々に知ってもらう、認知してもらう必要があります。
認知してもらうためには製品を差別化し、とんがった製品を提供する必要があるので、導入期にはプロダクトイノベーションが多く生じることになります。
この導入期と次の成長期の境目でドミナントデザインが確立します。
ドミナントデザインというのは、製品の標準規格のことです。
導入期は、製品の仕様や規格がかたまらず、さまざまな実験的な新製品が導入され技術的改良が行われる時期ですが、この技術的改良が一段落して、かたまった規格のことをドミナントデザイン(製品の標準規格)といいます。
このドミナントデザインの確立により、顧客の関心が価格に向かうことで、次の成長期が始まります。
成長期(≒移行期)は顧客の価格志向が強くなるため、コストを削減するために製造工程を改良する結果、プロセスイノベーションが多く生じることになります。
次の成熟期(≒固定期)には、(少し目線が代わって)インクリメンタルイノベーションが多く生じることになります。
市場が成熟している成熟期には、改善の余地も少なくなってくるので、インクリメンタルイノベーションによる細かな改善がメインになってきます。
なお、衰退期は製品ライフサイクル仮説において衰退期自体の戦略として撤退を検討すべき時期だとされています。
そのため、衰退期に多く生じるイノベーションというものは存在しません。
生産性のジレンマと事例(具体例)
このように製品のライフサイクルに応じてイノベーションが生じるわけですが、それに関連して生産性のジレンマというものについてみておきます。
生産性のジレンマというのは、成長期から成熟期に入ると企業の生産性は向上するが、その生産性の向上はインクリメンタルイノベーションによる細かな改善ばかりでかえって大きな技術革新が生じなくなることをいいます。
この生産性のジレンマの事例(具体例)は、スマートフォンの進化で考えることができます。
いわゆるガラケー(ガラパゴス携帯)の時代からアップルがiPhoneを開発し、スマートフォンを投入した時期はスマートフォン市場という新しい市場そのものをつくりだすような非常に大きなイノベーションが生じました。
ですが、競合他社もスマートフォン市場に参入し、競争を通じ機能が改善されていくにつれ、イノベーションの度合いはだんだんと小さくなっていき、大きな技術革新は生まれにくくなってきました。
このようなケースがまさに生産性のジレンマの事例(具体例)だといえます。
また、この生産性のジレンマに関連してSカーブ効果という用語もあります。
Sカーブ効果とは、ある技術の改良努力を積み重ねることで次第に進歩するが、やがて改良の余地が減少し、最終的にこれ以上進歩しないという段階に突き当たる現象です。
イノベーションの関連用語
ここではイノベーションに関連したいくつかの用語をみておきます。
産業の脱成熟化
産業の脱成熟化とは製品ライフサイクルのリセット(逆転・再出発)のことです。
成熟期にある産業をイノベーションにより、ライフサイクル自体をリセットして成長期に巻き戻し、再出発することを脱成熟化といいます。
この産業の脱成熟化の事例としては、機械式腕時計から日本のセイコー(SEIKO)などに代表されるクォーツ式腕時計への進化などがあてはまります。
分断的技術
分断的技術とは、機能面で既存技術より劣るものの既存技術とは異なる価値をもたらすような新技術のことです。
既存の企業からは当初はおもちゃ扱いされることもある技術であることが多いとされます。
この分断的技術をもとにしたイノベーションを分断的イノベーションといいます。
この分断的イノベーションの事例(具体例)は、カメラサービスのGoPro(ゴープロ)です。
GoProは、サーフィンやスキーなどの激しいエクストリームスポーツのボードなどにつけるカメラで、臨場感あふれる動画を撮影することができます。
撮影した動画はYou TubeやFacebookなどのSNSに投稿し多くの人にシェアすることができます。
GoProが登場した当初は、既存のカメラ業界からは、まさに「おもちゃ」扱いされたものですが、SNSなどでの盛り上がりにより、大きな成長を遂げました。
このGoProのような製品が分断的イノベーションの事例になります。
重量級プロダクトマネジャー
重量級プロダクトマネジャーとは、部門間の調整と製品開発の推進を兼務する責任者です。
通常のプロダクトマネジャーの役割は、製品開発の推進にありますが、そこに部門間の調整をする権限を付与したものが重量級プロダクトマネジャーになります。
ユーザーイノベーション
ユーザーイノベーションとは、製品の使用者であるユーザーがもたらすイノベーションです。
リードユーザーともよばれるユーザーは、アイデアの提供やプロトタイプである試作品の開発まで行います。