財政の定義と3つの機能|資源配分機能・所得再分配機能・経済安定化機能をわかりやすく説明
財政の定義をわかりやすくいうと
財政というのは、難しい言葉でいうと 政府による財貨の取得と支出のことです。
わかりやすくいうと 政府の入ってくるお金 収入 や 出ていくお金 支出 が財政の定義になります。
この財政の意義は何しょうか。
財政の意義
財政は公共財の供給や所得の再分配など 市場のシステムが機能しない分野で 重要な意義を持つ
経済学の範囲になりますが、市場のメカニズムには 市場メカニズムが機能しない 不完全なケースが存在します。
経済学では これを市場の失敗といいます。
市場の失敗の具体例にあたるのが 橋や道路といった公共財などです。
これらの 不完全なケースでは そのままでは効率的な状態というのは実現できないので 政府が調整する必要があります。
この市場経済の調整というのが 政府の重要な役割であり そのための手段が 財政ということになります。
財政の3つの機能
では この財政の機能について見ていきます。
財政学者のマスグレイブは財政の機能を 資源配分機能、所得再分配機能、経済安定化機能 の3つに分類しました。
財政の三機能1:資源配分機能
まず 財政の3機能の1つ目が 資源配分を調整する資源配分機能です。
ここでいう資源というのは 財を生産するための資源のことです。
つまり 財を生産する機械やそれを動かす労働力などが資源になります。
経済学や財政学ではこれを資本と労働と表現します。
この資本や労働などの生産のために投入される生産要素を資源といいます。
この資源の配分を行うというのが 財政の1つ目の役割になります。
わかりやすくいうと 市場のメカニズムに任せていては その財の供給が足らなくなるような場合に 政府が資源配分を調整し 資源を適切に配分することを意味します。
資源配分機能
効率的な資源配分を実現するために、市場での供給が不足する財の供給量を調整する機能
資源配分機能の例:国防や外交などの公共財、公害などの外部不経済の是正
これが資源配分機能です。
資源配分機能の例
たとえば、例にあるように 国防や外交などの公共財や公害などの外部不経済の是正を 政府が行うことが 資源配分機能の例になります。
この例として挙げた 公共財 や 外部不経済 は経済学で出てくる用語です。
簡単にいうと、まず 国防や外交などの公共財は 民間では適切に供給できなく 過少供給になってしまうおそれがあります。
そのため 政府が 公共財の供給を行う必要がでてきます。これが財政の役割になるわけです。
また たとえば 公害などのように 市場での取引を通さずに 市場の外で悪い効果が生じることを 外部不経済といいます。
このような外部不経済が生じていても 企業は 公害などは特に気にせずに財を供給してしまいます。
その結果 財の供給は過大(多すぎる状態)となってしまいます。
そこで 政府が 税金(こういった税金をピグー税といいます)などを 企業にかけることで外部不経済を是正することになります。
これら 公共財 や 外部不経済の是正が 資源配分機能の例になります。
以上が 資源配分を調整する資源配分機能のお話です。
財政の三機能2:所得再分配機能
では 次に所得再分配機能です。
これは最近話題になっている 所得の格差を 是正する機能になります。
この所得再分配機能の定義は以下のようになります。
所得再分配機能
市場経済における競争の結果生じる所得の格差を是正する機能
所得再分配機能の例:所得税の累進課税、社会保障制度
これが所得再分配機能です。
所得再分配機能の例
この所得再分配機能の例としては、所得税の累進課税 や 社会保障制度などがあります。
累進課税は、所得の大きい人ほど 納める所得税が大きくなる制度です。
一方で 社会保障制度は失業保険などのことを意味します。
失業保険は、失業した人 つまり 所得が得られない人に お金を給付してあげる制度になります。
所得税の累進課税は 所得が大きいほど税金が大きくなるので お金持ちからたくさん税金を取ることになります。
これに対し、失業保険は 反対に お金のない人のところにお金が行くことになります。
これらを通じて お金のある人からお金のない人にお金が移動することになるので、所得の再分配が進むことになるのです。
以上が 所得再分配機能になります。
財政の三機能3:経済安定化機能
そして 3つ目が経済安定化機能です。
経済の安定化をわかりやすくいうと景気の波をできるたけ小さく抑えるということです。
経済学で景気循環というものが出てきます。
資本主義経済のもとでは どうしても 好況・不況という波がやってくることになります。
(この波を経済学では、キッチンの波とか、コンドラチェフの波などといいます。)
これら波を できるだけ小さくしようという機能が 経済安定化機能になります。
経済安定化機能
好況・不況の影響を緩和し、経済を安定化する機能
経済安定化機能の例:フィスカルポリシー、ビルトインスタビライザー(所得税の累進課税、失業保険給付)
ビルトインスタビライザーのカッコの中の所得税の累進課税、失業保険給付は ビルトインスタビライザーの具体的な内容になります。
フィスカルポリシー
では このフィスカルポリシー と ビルトインスタビライザーについてみていきます。
まずは フィスカルポリシーからです。
フィスカルは「財政の」という意味で、ポリシーは「政策」という意味です。
ですから、フィスカルポリシーは裁量的な財政政策のことです。
フィスカルポリシー = 裁量的な財政政策
これが財政の経済安定化機能の例の1つになります。
たとえば、道路や橋などをつくる公共事業がフィスカルポリシーのイメージになります。
経済学におけるケインズの考え方によれば、経済が好況のときには 公共事業を減らすことで 景気の過熱を抑える必要があります。
一方で 不況のときには、公共事業を増やすことで 景気を刺激することになります。
このようにして、経済を安定させることができるのが フィスカルポリシーになります。
ですが このフィスカルポリシーには次のような 批判があります。
批判 : 適切な時期に政策が実施されないと、かえって経済に悪影響を及ぼす
政府の仕事はどうしても遅れがちなので、たとえば 公共事業を減らさなきゃいけないのに 公共事業を増やしたりすると、かえって 経済にはマイナスの影響になるということです。
ビルトインスタビライザー
次に 経済の安定化機能の例のもう1つであるビルトインスタビライザーについてです。
ビルトインスタビライザー = 景気の自動安定化装置のこと
ビルトインスタビライザーとは、景気の自動安定化装置のことであり、財政の経済安定化機能の1つです。
このビルトインスタビライザーの具体例としては さきほども出てきた 累進課税 や 失業保険給付があります。
ただ こちらでは 社会保障制度一般ではなくて、失業保険に限定しているので、その点は注意します。(理由はあとで説明します)
では 内容を見ていきます。
まず、所得税の累進課税についてですが、好況期には、所得の大きい人が増えるので、累進課税によれば税金が大きくなります。
この税金の増加は使えるお金である可処分所得を減らすので、その分消費が小さくなります。
この消費の減少により、景気の過熱を抑える役割を累進課税は果たすことになります。
所得税の累進課税
好況期:税金↑ ⇒ 景気の過熱を抑える
不況期:税金↓ ⇒ 景気を刺激する
次に、失業保険給付についてですが、好況期には失業者の数が減るので、失業者に対する失業保険の給付は減ることになります。
この失業保険の給付は政府の支出ですので、政府支出が減少します。
政府支出の減少は、公共事業の減少と同じような意味を持つので、景気の過熱を抑える働きをすることになります。
一方で、不況期には失業者の数が増えて、失業者が街にあふれるので、失業保険の給付は増えることになります。
この失業保険の増加は、政府支出の増加を意味します。
政府支出の増加は、公共事業を増やすのと同じような意味になるため、景気を刺激する役割を果たします。
失業保険給付
好況期:給付↓ ⇒ 景気の過熱を抑える
不況期:給付↑ ⇒ 景気を刺激する
ですから、これらの制度は、好況期には 景気の過熱を抑え 不況期には 景気を刺激する役割を果たすことから、景気がいい方向にも、悪い方向にも行き過ぎるのを防ぐ役割を果たすことになります。
そのため、経済の安定化に役立つことになるのです。
そして、これらの制度、好況や不況になると自動的に働くため 景気の自動安定化装置と呼ばれます。
スタビライザーというのは、車とかラジコン車の部品にも 同じ名前の部品がありますが、スタビライザーというのは 車の姿勢を保つ 安定化させる部品のことです。
そのため 景気を安定させる仕組みのことを ビルトインスタビライザーといいます。
ビルトインというのは あらかじめ組み込まれているという意味です。
たとえば、キッチンにあらかじめ組み込まれているコンロのことを「ビルトインコンロ」といいますね。
財政の制度上あらかじめ組み込まれている景気の自動安定化装置だから ビルトインスタビライザーというわけです。
このようにビルトインスタビライザーの例として、失業保険が挙げられます。
失業保険は、社会保障制度の一部ですが、社会保障制度全般はビルトインスタビライザーの例とはなりません。
これに対し、所得再分配機能の例は社会保障制度全般を含むと考えられます。
この違いは、なんでしょうか?
社会保障制度には失業保険のほかにたとえばシングルマザーに対する寡婦手当なども含んでいます。
いいかえれば、シングルマザーに対する手当は、経済安定化機能の例には含まれないことになります。
つまり、シングルマザーに対する手当は、所得の再分配には役立つが、経済の安定化には役立たないといえるわけです。
なぜそうなるかといえば、まず、シングルマザーに対する手当は格差の是正に役立つので、所得の再分配に役立つ点はいいですね。
一方で、経済の安定化に役立つビルトインスタビライザーとして機能するためには、さきほどみたように、景気の変動に応じて手当の金額が自動的に変動する必要があります。
この点、失業保険は景気に合わせて自動的に変動しますが、シングルマザーに対する手当は景気に合わせては自動的には増減しません。
景気が悪くなるとシングルマザーが増えるとはいえませんね。(反対に、単なる推測ですが、景気がよくなると1人でもやっていけるとして、シングルマザーが逆に増えるかもしれません。)
そのため、シングルマザーに対する手当はビルトインスタビライザーの効果がなく、経済の安定化には役立たないといえるわけです。
これが、所得再分配機能の例が社会保障制度なのに対し、経済安定化機能を果たすビルトインスタビライザーの例が失業保険に限られる理由になります。
以上が、財政の経済安定化機能の内容です。
財政の3つの機能
資源配分機能の例:公共財、外部不経済の是正
所得再分配機能の例:所得税の累進課税、社会保障制度
経済安定化機能の例:フィスカル・ポリシー、ビルトイン・スタビライザー(所得税の累進課税、失業保険給付)