AIに代替されてなくなる仕事なくならない仕事|税理士、コンサルタント、建築士、プログラマー、薬剤師は?
AIは仕事を奪う存在か?
AI(人工知能)の開発が進んでいます。
囲碁や将棋、チェスなどでは人間能力を上回るAIもすでに開発されています。
将来的にはほぼすべての面で人間の能力を上回るAIも開発されるという主張もあります。
また、AIではありませんが、RPA(ロボットプロセスオートメーション)の技術により、定型的な業務をプログラム(ソフトウェア)に任せるということも進められています。
すでに金融などの分野で、さまざまな業務において、いままで人間が行っていた定型的業務がこれらのプログラムに置き換えられつつあります。
将来AIの開発が進むと、人間の行っていた仕事がAIに代替されてしまいAIが仕事を奪うのではないかという懸念があります。
AIに仕事を奪われて、人間の仕事がなくなってしまうという将来は本当にやってくるのでしょうか。
AIに代替されてなくなる仕事は?
AIに代替されてなくなる可能性が高い仕事は、すでにRPAなどによっても代替が進んでいる定型的な業務です。
経営学者のサイモンは、人間の意思決定には定型的意思決定と非定型的意思決定があると主張します。
定型的意思決定とは、プログラム化された型通りの意思決定で、ルーチンワーク的な意思決定です。
これに対し、非定型的意思決定とは、プログラム化されていない意思決定であり、新たな問題に対処するための意思決定だとされます。
人間の携わる業務のうち定型的意思決定を中心になされる仕事はAIに代替されてなくなる可能性が高いといえます。
AIの時代でもなくならない仕事は?
では、どのような仕事がAIの時代でもなくならない大丈夫な仕事なのでしょうか。
AI時代でもなくならない仕事は以下のような仕事です。
- 非定型的意思決定が求められる仕事
- 人間との接触が必要な仕事
- 「関所(せきしょ)」的な仕事
非定型的意思決定が求められる仕事
AIによっても代替されない仕事は、さきほどの分類でいえば、非定型的意思決定が中心となる仕事だといえます。
現在のAIは過去の統計やデータから答えを導いているにすぎません。
そのため、直感が求められたり、解くべき問題自体を設定することが必要な非定型的意思決定については、AIは苦手だといえます。
たとえば、誰も生み出していない新たなデザインや設計を行う建築家やプログラマーなどはAI時代にも生き残ると思われます。
一方、建築の仕事でも構造計算や法規制への準拠の確認だとか、プログラミングでもデバッグ業務などは定型的な意思決定が中心となる仕事です。
建築家やプログラマーでも、定型的意思決定の割合が高い仕事は次第にAIに代替されていくと思われます。
人間との接触が必要な仕事
AI(ソフトウェア)の進化とロボット(ハードウェア)の進化は別の話です。
物理的にモノをつくりだす必要がない分、AI(ソフトウェア)の進化のスピードは、ロボット(ハードウェア)の進化のスピードよりも非常に早いと考えられます。
このように考えると、人間やほかの対象と物理的な接触が必要になる仕事はAIに代替されにくいなくならない仕事だといえます。
たとえば、介護やマッサージ、あんまなどの仕事はAIが進化しても、介護ロボットやマッサージロボットの進化が大きく進まない限りはなくならないでしょう。
一方で、チャットボット(chatbot)という形で人間とのコミュニケーションをとれるAIの開発が進んでいます。
コールセンターなど質問の内容が一定分野に限られる仕事は、すでに一部がAIに置き換えられつつあるといえます。
そのため、人とのコミュニケーションが求められる仕事であってもある程度はAIに代替されると考えられます。
ですが、単なる言葉や情報のやり取りを超えた「癒やし」や「傾聴」「安らぎ」といった要素を求められるカウンセラーやコンサルタント(中小企業診断士)、精神科医、弁護士、バーテンダー、ラウンジ、カウンター式の喫茶店のマスターなどはAIに代替されにくい仕事だといえます。
なお、AIにより代替される仕事としてよく挙げられる薬剤師の仕事は、調剤ロボットが開発されれば、薬剤師の業務は大部分が自動化されることが予想されますが、それはAI(ソフトウェア)だけで置き換わる仕事(定型的意思決定のみ求められるような仕事)が淘汰された後の話だと思われます。
「関所(せきしょ)」的な仕事
AIの進化が進むにつれて定型的な仕事は、どんどんAIに代替されていきます。
弁護士業務でも過去の判例のチェックなどは定型的な仕事ですし、税理士がレシートや通帳などの証憑(しょうひょう)から仕訳や決算書を作成する業務も定型的な仕事です。
また、医療現場における病気や症例の発見についても、分野によってはすでにAIと人間の医師で成績が変わらない状況です。
こういった仕事はどんどんAIに置き換わっていくものと思われます。
ですが、税務申告や訴訟、医療などのタスクが完全に自動化されるには長い時間がかかると思われます。
また、自動化されても、ミスやイレギュラーな事態は起こります。
そういったミスやイレギュラーな事態もAIによって解決され、それでも起こるようなどうしようもない問題に対しては顧客や患者の側が「AIでも解決できない問題だからしょうがない」として結果に納得するようになるのはいずれ可能だとしてもかなり先になるでしょう。
そういった何でもかんでも自動化される世の中になるまでの間は、それぞれのタスクで責任を負う人が必要になります。
昔は国と国の間に関所(せきしょ)がありました。
関所はいまでいう入国管理局が近いイメージです。
仮に関所のチェックにもかかわらず、不法入国者を入国させてしまえば、それは関所の責任になります。
ですから、こういった入国というタスクに対して責任を負う部署が関所だということになります。
この関所のように、あるタスクに対して最終的に責任を負う人というのは、AIによって自動化が進んだ社会でも必要になります。
たとえば、税務申告というタスクだったら代理人として判子を押す税理士が必要ですし、訴訟というタスクだったら訴訟代理人となる弁護士が責任を負います。
また、医療の分野では、担当医師が責任を負うことになります。
こういった「関所」的な仕事というのは、実際の仕事内容が単なるAIのオペレーターだったとしても、いざ問題となったときは必要となる仕事だといえます。
もちろん昔の電話交換手の業務のように、機械やAIによる自動化が進んでタスク自体が消滅すれば、その仕事はなくなります。
たとえば、税理士業務でも、キャッシュレス化が進みすべての取引が電子的に記録されれば、それを集約して国税庁が決算書をつくるようになることも、実際にエストニアにような一部の国ですでに起こりつつあります。
そうすると税務申告というタスク自体がなくなるため、税務申告の代理人としての税理士の仕事はなくなると思われます。
ですが、電話交換手を雇っていたNTTの仕事はなくなっていないように、なくなるタスクに関連したより付加価値の高い仕事は残るものと思われます。
なので、仮に税務申告業務がなくなっても、それに関連した個人のファイナンシャルプランニングや企業の資金繰りへのアドバイス、事業承継の相談や仲介などお金や企業財務に関するカウンセリング的な仕事あるいはコンサルティング的な仕事というのはAIの時代にもなくならないと考えられます。
どういった仕事から先になくなるか
以上をまとめると、まずなくなるのは定型的な仕事、つぎが(なくなるのは一部の仕事だし、だいぶ先になると思われますが)業務プロセス全体がAIに代替されるような「関所」的な仕事、最後まで残るのが「関所」的業務に関連するカウンセリングやコンサルティング要素を持つ仕事ということになります。
これをAI時代を生き抜く個人の観点からいうと、たとえば税理士業務では、定型的な業務を行う税理士事務所の職員ではなく、「関所」的な業務を担う税理士の方が仕事としてはなくなりにくいといえます。
また、単なる税理士ではなく、AIに代替されにくいコンサルティング的な仕事までこなせるようなお金や企業財務のプロフェッショナルの方がAI時代でも生き残りやすいといえることになります。