消費者余剰と生産者余剰のグラフをわかりやすく説明|余剰分析とは何か
余剰分析の余剰とは効率性をわかりやすく測るモノサシ
経済学とは、有限の資源をいかに効率よく利用しているかを分析する学問です。その意味で、経済学は効率性について分析するものだといえます。
つまり、経済学というのはお金に関する学問ですが、経営学や会計学、会社法(法学)といろいろとあるお金に関する学問の中でも、資源を効率的に使っているかどうかを追求していくのが経済学だといえます。
そこで、ここでは経済学の分析対象である市場が効率的かどうかを考えてみます。この市場が効率的かどうかを判断するためのモノサシが余剰になります。
つまり、余剰が大きければ市場は効率的だと判断することになるわけです。
この余剰には消費者余剰と生産者余剰があります。
この消費者余剰と生産者余剰の求め方(見方)と計算方法をグラフでわかりやすく説明します。
余剰分析における余剰の意味
余剰というのは、わかりやすくいうと経済学におけるそれぞれの登場人物の利益の合計になります。
もっとわかりやすくいうと、余剰とは市場が効率的かどうかを判断するモノサシのことです。
市場の主な登場人物は、消費者と生産者ですが、消費者と生産者の利益にあたるものに効用と利潤というものがあります。
効用は消費者の得る満足、利潤は生産者である企業の獲得する利益になります。
ここでは、効用と利潤とは別の尺度として余剰という概念で消費者と生産者それぞれの利益を考えていきます。
余剰分析では、市場の主な登場人物である消費者と生産者の利益の合計を社会全体の余剰と考えます。
この社会全体の余剰が、市場が効率的かどうかを表すモノサシになります。
この社会全体の余剰のことを社会的余剰(総余剰)といいます。
この社会全体の余剰である総余剰は、消費者の余剰である消費者余剰と生産者の余剰である生産者余剰の合計になります。
社会的余剰(総余剰)= 消費者余剰 + 生産者余剰
そして、消費者と生産者のほかにも政府が登場してくる場合は、政府の利益についても、政府の余剰として社会的余剰に足してあげます。
政府の利益というのは、主に税金になります。
ですから、この場合
社会的余剰(総余剰)
= 消費者余剰 + 生産者余剰 + 政府の余剰(税収)
になります。これが社会的余剰になります。
そして、この社会的余剰は完全競争市場で最大となります。
完全競争市場とは、みんなが価格受容者(プライス・テイカー)として行動する市場のことです。市場で決まった均衡価格をそのまま受け入れて行動する経済主体のことをプライス・テイカーといいます。
ですから、社会的余剰が完全競争市場で最大となるということは、みんなが価格受容者(プライス・テイカー)として行動する完全競争市場で最も効率的な状態になるということです。
逆にいえば、独占企業などのプライス・メーカーが存在する場合は、市場は効率的ではなくなることを意味します。
消費者余剰とは:求め方を例とグラフで説明
では、それぞれの余剰についてもう少し詳しく見ていきます。
まずは消費者余剰からです。消費者余剰は英語で Consumer surplus といい、略してCSと表現することもあります。
消費者余剰とは、ミクロ経済学では消費者がある財を手に入れるために支払ってもよいと考える額と実際に支払った額との差であるとされます。
消費者余剰の例
消費者 Aさん B君
予算 10万円 8万円
価格 5万円 5万円
余剰 5万円 + 3万円 = 8万円
たとえば、Aさんがパソコンを買うときに10万円までなら払ってもいいと思っていたとします。
このとき実際にはパソコンを5万円で買えたとするとAさんは(予算10万円-価格5万円で)5万円得したと思うことになります。
この得した気分がこの場合の余剰になります。
また、B君はパソコンに8万円までなら払ってもいいと思っているとします。
そして、Aさんと同じく5万円のパソコンを買った場合、B君は3万円得したと思うことになります。
ですから、B君の余剰は(予算8万円-価格5万円で)3万円になります。
市場にAさんとB君の2人しかいない場合、AさんとB君の得した気分の合計が消費者余剰になります。
ですから、5万円+3万円の8万円が消費者余剰になります。
消費者余剰のグラフと面積の計算
グラフにおける消費者余剰をわかりやすく表現すると「需要曲線と価格の差」の部分の面積が消費者余剰になります。
では、この消費者余剰の求め方をグラフで確認します。
たとえば、P円とx個という需要曲線と供給曲線の交点ではない価格と数量で消費をするとします。
この場合、消費者は需要曲線上の価格ならその財を買ってもいいと思っています。それに対し、実際に買った金額は1個あたりP円で買うことができました。
そのため、消費者がある財を手に入れるために支払ってもよいと考える額と実際に支払った額との差である消費者余剰は、需要曲線と価格(と縦軸)の間の部分の面積で表せることになります。
計算問題では消費者余剰の求め方の式を理解しておく必要があります。
上のグラフにおいて消費者余剰の求め方の式は三角形の面積(底辺×高さ÷2)として計算されるため、原点Oから数量xまでの長さに価格Pから需要曲線の縦軸切片までの高さを掛け合わせて、それを2で割った値となります。
生産者余剰とは:求め方を例とグラフで説明
次に、生産者余剰についてみます。
生産者余剰は英語で Producer Surplus といい、略してPSと表現されることもあります。
生産者余剰とは、生産者が市場で取引することで有利になる分のことを指します。
生産者余剰の例
生産 1台目 2台目
価格 5万円 5万円
コスト 3万円 4万円
余剰 2万円 + 1万円 = 3万円
例えば パソコンの例でいえば、パソコンを1台を(追加で)余分に作るコストが3万円だとします。
この追加でかかる費用のことを経済学では限界費用MC(Marginal Cost)と表現します。
パソコンの値段は先ほどと同じく5万円だとすると、この企業は2万円の利益を追加で得られることになります。
一方で、2台目のパソコンを余分に作るコストが4万円だとします。
2台目のパソコンを作るには、従業員に残業してもらわなければならなかったので、その分コストが高くなったと考えます。
パソコンの値段を5万円だとすると、2台目のパソコンの生産で企業は1万円の利益を追加で得ることになります。
それぞれの利益の合計が、企業の得る余剰(=生産者余剰)になるので、2万円+1万円の3万円が生産者余剰になります。
生産者余剰のグラフと面積の計算
グラフにおける生産者余剰をわかりやすく表すと「価格と供給曲線の差」の部分の面積が生産者余剰になります。
この生産者余剰の求め方をグラフで確認します。
この場合も需要曲線と供給曲線の交点ではないP円、x個という組み合わせで生産を行うとして考えてみます。
企業は自らの利益である利潤を最大にするために限界費用と価格が等しくなる水準で生産を行います。
そのため、価格と生産量の関係を表す供給曲線は限界費用曲線と等しくなります。つまり、供給曲線は限界費用の水準を表す線なんだということです。
企業は製品1個あたり価格Pの収入を得ることができます。この価格Pから限界費用を引いた残りが企業の得る利益を表す生産者余剰となります。
そのため、生産者が市場で取引することで有利になる分である生産者余剰は価格と供給曲線(と縦軸と生産量を表す縦のライン)の間の部分(台形部分)の面積となります。
なお、供給曲線は限界費用曲線でもあるため、供給曲線の下の部分の面積は限界費用の合計になります。
そして、この限界費用の合計は、生産に連動してかかる費用である可変費用に等しくなります。
限界費用は生産のたびに追加でかかる費用なので、生産に連動(比例)してかかる費用だといえます。
そのため、限界費用の合計は生産に連動する可変費用に等しくなります。
つまり、生産者余剰は、P円かけるx個で表される企業の収入から可変費用を引いた残りの利益に等しくなります。これは生産者余剰が固定費用の回収に役立てられる利益を表していることを意味します。
計算問題では生産者余剰の求め方の式が必要になります。
上のグラフの例では、生産者余剰の求め方の式は台形部分の面積になります。
台形の面積の公式は、(上底+下底)×高さ÷2です。
グラフでは、数量xにおける需要曲線Dと供給曲線Sの差の部分の長さが上低、価格Pと供給曲線Sの縦軸切片までの長さが下底、原点Oから数量xまでの長さが高さとして計算されます。
消費者余剰と生産者余剰の合計=社会的余剰
これらの消費者余剰と生産者余剰の合計が社会全体の余剰である社会的余剰(総余剰)になります。
社会的余剰(総余剰)は英語だと Total Surplus ですのでTSと略されることもあります。
完全競争市場均衡における余剰
では、次に完全競争市場均衡における余剰について考えてみます。
完全競争市場における市場均衡、つまり、完全競争市場均衡は需要曲線と供給曲線の交点であらわされます。
この場合の均衡価格はP*で、均衡数量はX*になります。
ですから、需要曲線と価格(と縦軸)の間の部分の面積(青色の三角形の面積)が消費者余剰となり、価格と供給曲線(と縦軸)の間の部分の面積(赤色の三角形の面積)が生産者余剰になります。
ですから、トータルでは需要曲線と供給曲線(と縦軸)で囲まれた三角形の面積が(社会全体の余剰である)総余剰になります。
よって、完全競争市場均衡では、消費者余剰と生産者余剰のそれぞれの求め方の式は、三角形の面積である底辺×高さ÷2となり、これらの合計が総余剰の大きさになります。
完全競争市場均衡ではないケース
一方で、価格が(需要曲線と供給曲線の交点の価格である)均衡価格ではないケースでは、総余剰は完全競争市場均衡と比べて小さくなってしまいます。
この余剰が減少した分のことを厚生の損失(グラフのグレーの部分)といいます。
厚生の損失とは、わかりやすくいえば課税などによって失われてしまった余剰のことです。
この厚生の損失にはいろいろと呼び方があって、死荷重、DWL(Deadweight Loss)、死重的損失、経済余剰の損失ともいいます。
これらは全部同じ意味だと思っておけばいいですが、死荷重や死重的損失はDWL(Deadweight Loss)の直訳ですね。
また、財政学では厚生の損失のことを超過負担といいます。
ですから、総余剰は完全競争市場において最大になるということがわかります。
つまり、均衡価格、均衡数量ではない組み合わせでは、このような死荷重(厚生損失)が生じてしまうため、総余剰は最大にはならないことになります。
この場合の死荷重の面積の求め方の式は、数量xにおける需要曲線Dと供給曲線Sの差の部分を底辺とし、数量xから完全競争市場均衡における均衡数量までの長さを高さとする三角形の面積として計算されます。