FX停滞後のブレイクは上か下か?チャート停滞後のブレイクアウトの方向とは
FXのブレイクアウトとは
ブレイクアウトとは、FX相場が上下の値動きが小さくなる停滞後に上か下に大きく値が動くことを意味します。
たとえば、東京ドル円ではFX相場の日々の値動きは、1円に満たないことがほとんどですが、チャートが停滞した後のブレイクアウトが起こると、1円以上の値動きをみせることがあります。
そのため、FXチャートの停滞期にあらかじめブレイクアウトの方向を予測することができれば、停滞後のFX相場のブレイクアウトにより大きな利益を得ることができます。
反対に、間違った方向に仕掛けた場合、FXのブレイクアウトにより大きな損失を被るリスクもあるため、FX相場が停滞中にエントリーする場合、あわせて損切のためのロスカットの注文をしておくことが必要だといえます。
FXの停滞期とは?停滞期をどのように定義するか
一口にFXチャートが停滞しているといっても、なにをもって「停滞」とするかは人により違います。
たとえば、ある期間の相場の値動きの幅をあらわすボラティリティが小さくなること、値動きの標準偏差の大きさを意味するボリンジャーバンドのバンドの幅が狭くなること(これをスクイーズといいます。)などがFX相場の停滞期の具体例として考えられます。
今回はFX相場の停滞期として、モメンタムを使って検証してみます。
モメンタムとは、勢いとか方向性という意味であり、FXのチャートでは、ある期間の終値と終値の差としてあらわされます。
モメンタムの絶対値が小さいということは、為替の値動きが小さなレンジ(範囲)に収まっているということであり、FX相場が停滞していることを意味します。
ここではFXのモメンタムとして、東京ドルの日足の終値が3回連続で同じ値が続く場合について検証してみます。
終値が3回連続で同じ値となるということは、2日間のモメンタムが連続でゼロであることを意味し、始値や日中の値動きにもよりますが、3日間にわたり終値を中心とした上下の狭いレンジでFX相場が停滞していると考えられるため、FX相場が停滞期にあるサインとして活用できます。
FXチャートの停滞期としてモメンタムを使ってみる
では、実際にFXチャートの停滞期のサインとして、ドル円相場がモメンタムがゼロとなり、終値が3回連続で同じ値となった場合を確認してみます。
1996年1月からのデータでは、東京ドル円市場において2日間モメンタムが2回連続でゼロとなり、3回連続で終値が同じ値となったのは、2019年8月26日から28日の3日間だけです。
これ1回だけでは統計的な価値がありませんから、もう少し条件を緩めてみることにします。
3日間のうち、1日目と2日目、2日目と3日目のそれぞれのモメンタム(=終値の差)が0となったのは2019年8月だけだったので、今度はモメンタムである終値の差の絶対値が1pips(=0.01円=1銭)以下であった場合をみてみます。
このような3回連続で”ほぼ”同値といえるケースは、2019年の8月のほかに2007年の12月末にみられました。
この2007年12月のケースはドル円相場はその後大きく下落し、円高になりました。
同様に、2日間のモメンタムの絶対値が2回連続で2pips(=0.02円=2銭)以下のケース、3pips(=0.03円=3銭)以下のケース、4pips(=0.04円=4銭)以下のケース、5pips(=0.05円=5銭)以下のケースと順に条件を緩めてみると、2pips(=0.02円=2銭)以下のケースは8回、3pips(=0.03円=3銭)以下のケースは12回、4pips(=0.04円=4銭)以下のケースは28回、5pips(=0.05円=5銭)以下のケースは55回存在していました。
20回以上サンプルがあれば、一応、分析することはできると考えられるため、モメンタムである終値と終値の差の絶対値が0pips~5pipsのケースを確認することにします。
FXの停滞後の1日の値動き
上記のような定義でFX相場の停滞を定義した場合、FXの停滞があった次の始値からその次の始値までの為替の値動きを確認します。
2019年8月以外では一番条件の厳しい2007年12月のケースが円高だったので、ポジションは円高方向にかけるショートポジションで検証します。
モメンタムの絶対値 | 0pips | 1pips | 2pips | 3pips | 4pips | 5pips |
総損益 | 0% | 4% | 4% | 4% | 7% | -1% |
総取引数 | 0 | 1 | 8 | 12 | 28 | 55 |
平均損益 | – | 4.1% | 0.5% | 0.4% | 0.2% | 0.0% |
勝率 | – | 100% | 38% | 50% | 54% | 47% |
プロフィットファクター | – | – | 3.5 | 2.8 | 2.5 | 0.9 |
最大ドローダウン | 0% | 0% | -1% | -2% | -2% | -10% |
FXのモメンタムの絶対値が5pips以下の場合以外は、すべて円高方向へのエントリーで利益になることがわかります。
モメンタムの絶対値が4pips以下までのケースでは、勝率はあまり高くはありませんが、プロフィットファクターは良好だといえます。
この検証結果によれば、FX市場の停滞後の値動きは下方にブレイクアウトする傾向にあるといえそうです。
FXの停滞後の3日の値動き
では、トレード期間を今度は1日から3日に増やして検証します。
トレード期間を3日にすると停滞の定義に連続で当てはまった場合、重複してポジションを持つことになるため、ここでは前日に停滞の定義に当てはまらないことを条件に加えています。
その結果、トレード回数である総取引数はポジションを1日だけ保有する場合よりも減っている点に注意してください。
モメンタムの絶対値 | 0pips | 1pips | 2pips | 3pips | 4pips | 5pips |
総損益 | 0% | 4% | 6% | 5% | 3% | 1% |
総取引数 | 0 | 1 | 8 | 10 | 23 | 47 |
平均損益 | – | 4.1% | 0.7% | 0.5% | 0.1% | 0.0% |
勝率 | – | 100% | 63% | 60% | 48% | 49% |
プロフィットファクター | – | – | 5.8 | 2.5 | 1.4 | 1.0 |
最大ドローダウン | 0% | 0% | -1% | -3% | -5% | -11% |
今度は5pips以下のケースまで含めて、すべてのケースで停滞後の下方ブレイクアウトにかけるショートポジションで利益になりました。
特に、モメンタムの絶対値が2pips以下のケースの成績が勝率、プロフィットファクターなどの点で優れています。
FXの停滞後の5日の値動き
同じように、今度はトレード期間を5日にしてみます。
モメンタムの絶対値 | 0pips | 1pips | 2pips | 3pips | 4pips | 5pips |
総損益 | 0% | 3% | 6% | 4% | 2% | -1% |
総取引数 | 0 | 1 | 8 | 10 | 23 | 47 |
平均損益 | – | 3.3% | 0.7% | 0.4% | 0.1% | 0.0% |
勝率 | – | 100% | 50% | 50% | 35% | 40% |
プロフィットファクター | – | – | 3.2 | 1.9 | 1.1 | 0.9 |
最大ドローダウン | 0% | 0% | -3% | -5% | -7% | -14% |
長くポジションを持つとそれだけリスクが大きくなるため、最大ドローダウンが大きくなります。
それに伴って成績も伸びてくれればいいのですが、ポジションの保有期間が3日の場合に比べて、あまり成績は良くなっていません。
FXの停滞後の10日の値動き
では、今度は10日間ポジションを保有した場合の成績を確認してみます。
モメンタムの絶対値 | 0pips | 1pips | 2pips | 3pips | 4pips | 5pips |
総損益 | 0% | 6% | 10% | 7% | 9% | 8% |
総取引数 | 0 | 1 | 8 | 10 | 23 | 47 |
平均損益 | – | 6.4% | 1.2% | 0.7% | 0.4% | 0.2% |
勝率 | – | 100% | 50% | 50% | 52% | 47% |
プロフィットファクター | – | – | 5.3 | 2.1 | 1.8 | 1.3 |
最大ドローダウン | 0% | 0% | -2% | -6% | -8% | -12% |
ここでも終値の差が2pips以下のケースの成績が比較的良いといえます。
最大ドローダウンが小さいため、ある程度レバレッジをかけてトレードすることが可能だといえそうです。
FXの停滞後のブレイクアウトをモメンタムで絞り込む
ここまでみてきた中で、FXチャートの停滞期の定義として、モメンタムである終値と終値の差の絶対値が2pips以下のケースが有望そうです。
では、このケースについて、他の条件を加えるなどして、もう少し改良できないかを考えてみます。
ここでは新しい条件として、中期のモメンタムの方向を考えてみます。
FXチャートが停滞している条件として、2日間の終値と終値の差であるモメンタムの絶対値を考えてきましたが、それに加えて、10日間のモメンタムの方向をフィルターとして使ってみます。
さきほどの検証で成績が良かった2日間のモメンタムの絶対値が2pips以下のときに、円高にかけるショートポジションを3日間保有するケースと10日間保有するケースに中期のモメンタムをフィルターに加えて検証します。
10日間の中期のモメンタムがプラスの場合だけトレードした場合の売買成績は以下のようになりました。
保有期間 | 3日間 | 3日間 | 10日間 | 10日間 |
中期のモメンタム | なし | あり | なし | あり |
総損益 | 6% | 6% | 10% | 11% |
総取引数 | 8 | 7 | 8 | 7 |
平均損益 | 0.7% | 0.9% | 1.2% | 1.6% |
勝率 | 63% | 71% | 50% | 57% |
プロフィットファクター | 5.8 | 7.9 | 5.3 | 12.7 |
最大ドローダウン | -1% | -1% | -2% | -1% |
保有期間が3日の場合も10日の場合も、中期のモメンタムフィルターを加えた場合のほうが勝率、プロフィットファクターなどの売買成績が改善しています。
(まとめ)FXの停滞後のブレイクアウトの方向は
東京ドル円の2日間の終値の差である2日間モメンタムの絶対値が2pips(=0.02円=2銭)以下となり、FXチャートが停滞している場合、その後のブレイクアウトは下方ブレイクアウトとなる傾向があることが確認できました。
そして、下方ブレイクアウトを期待してドル円の売りポジションをもつ場合、中期の為替の値動きとして10日間のモメンタムがプラスであることを条件に加えると良いことがわかりました。
ただし、今回の検証では、取引数が10回を下回っているため、統計上の優位性には疑問があるといわざるを得ません。
そのため、積極的なショートポジションを持つことは躊躇されるともいえます。
ですが、条件をゆるめた検証でも停滞後の下落傾向はみられるため、円安にかけるロングポジションを手仕舞いしたり、ロングのサインを見送ったりするという形では参考になると思われます。