米国株ETFによるセクターローテーション戦略の検証|SPYに勝てる組み合わせは
セクターローテーション戦略とは
米国の株式市場は11のセクターに分かれています。
セクターローテーション戦略とは、景気状況やインフレの状態、相場の動向に応じて投資対象となるセクターを切り替える戦略です。
一般に、金利の高いときは高インフレであり、エネルギーセクターが強く、金利が低いときは低インフレでヘルスケアセクターなどが強いとされています。
また、好景気には素材などのセクターが強く、不景気には公益事業などが強いとされます。
米国株ETFを対象にセクターローテーション戦略を検証
ここでは、相場の状況を景気や金利ではなく、株価の強さで図り、株の上昇局面と下落局面でセクターをローテーションして切り替える戦略を検証してみます。
具体的には、アメリカの株価指数であるS&P500の200日間単純移動平均(SMA)をとり、S&P500の値(終値)が移動平均線よりも上にあれば、株価は上昇局面、下にあれば、株価は下落局面とします。
上昇局面:SPY買い・下落局面:9セクター買い
まずは、上昇局面ではS&P500に連動するETF(上場投資信託)であるSPYを買い、下落局面で各セクターのETFを買った場合の検証結果をみてみます。(検証期間は1999年1月から2018年7月までです。)
検証では新設されたばかりのコミュニケーションセクターとETFの上場期間の短い不動産セクターを除いた9つのセクターのETFを対象に分析しています。
すなわち、一般消費財セクター(XLY)、エネルギーセクター(XLE)、金融セクター(XLF)、情報技術(電気通信サービス)セクター(XLK)、公益事業セクター(XLU)、資本財セクター(XLI)、生活必需品セクター(XLP)、素材セクター(XLB)、ヘルスケアセクター(XLV)の9つのETFになります。
上昇局面で買うETF | 下落局面で買うETF | 総損益 | 総取引数 | 勝率 | プロフィットファクター | 最大ドローダウン |
SPY | SPY | 154% | 4926 | 54.0% | 1.08 | -70% |
SPY | XLY | 215% | 4926 | 53.8% | 1.10 | -70% |
SPY | XLE | 159% | 4926 | 53.7% | 1.07 | -69% |
SPY | XLF | 193% | 4926 | 53.3% | 1.08 | -122% |
SPY | XLK | 119% | 4926 | 53.1% | 1.05 | -116% |
SPY | XLU | 144% | 4926 | 54.1% | 1.08 | -76% |
SPY | XLI | 162% | 4926 | 53.8% | 1.08 | -89% |
SPY | XLP | 182% | 4926 | 53.8% | 1.11 | -41% |
SPY | XLB | 239% | 4926 | 54.1% | 1.12 | -80% |
SPY | XLV | 165% | 4926 | 53.8% | 1.09 | -46% |
比較対象として、下落局面でもSPYを買った場合(要するにSPYをバイアンドホールドで保有した場合)、総損益は154%、最大ドローダウンは70%となりました。
なお、今回の検証ではある日の終値から翌日の終値の騰落率(=1日ごとの騰落率)の合計として総損益を計算しています。そのため、純粋なバイアンドホールドの成績とは異なっています。
もっとも総損益が優れていたのは、下落局面に素材セクター(XLB)を買う戦略で、総損益239%でしたが、最大ドローダウンは80%と悪化してしまいました。
逆に総損益がもっとも悪かったのは、下落局面に情報技術セクター(XLK)を買う戦略で、総損益は119%しかありませんでしたし、最大ドローダウンも116%と大きく悪化しています。
一方で、最大ドローダウンの大きさの点では、下落時に生活必需品セクター(XLP)を買う戦略が最大ドローダウンが41%ともっとも優れていました。
この戦略は総損益も182%とSPYのバイアンドホールド戦略に比べ、改善しており全体のバランスの上でももっとも良い結果となりました。
なお、最大ドローダウンの点でもっとも成績が悪かったのは、下落時に金融セクター(XLF)を買う戦略で、最大ドローダウンは122%でした。
結論として、下落時に生活必需品セクター(XLP)を買うのが一番良い結果となったといえます。
生活必需品セクターはディフェンシブなセクターといえるため、相場の下落局面で生活必需品セクターを買うというのは、ファンダメンタルズ分析の視点や一般的なセクターローテーションの考え方からしても妥当だと考えられます。
上昇局面:9セクター買い・下落局面:XLP買い
では、今度はさきほど一番成績が良かった下落時に生活必需品セクター(XLP)を買うという戦略を固定した上で、上昇局面でXLPを含む9つのセクターのETFをそれぞれ買った場合の成績を検証してみます。
上昇局面で買うETF | 下落局面で買うETF | 総損益 | 総取引数 | 勝率 | プロフィットファクター | 最大ドローダウン |
SPY | SPY | 154% | 4926 | 54.0% | 1.08 | -70% |
XLY | XLP | 183% | 4926 | 52.3% | 1.10 | -49% |
XLE | XLP | 250% | 4926 | 51.7% | 1.11 | -51% |
XLF | XLP | 186% | 4926 | 51.4% | 1.09 | -61% |
XLK | XLP | 227% | 4926 | 53.9% | 1.11 | -81% |
XLU | XLP | 199% | 4926 | 52.6% | 1.11 | -38% |
XLI | XLP | 212% | 4926 | 53.3% | 1.12 | -46% |
XLP | XLP | 133% | 4926 | 51.9% | 1.08 | -41% |
XLB | XLP | 144% | 4926 | 51.8% | 1.07 | -62% |
XLV | XLP | 198% | 4926 | 52.1% | 1.12 | -38% |
まず、S&P500が200日移動平均(SMA)を上回っている上昇局面でもXLPを買うというXLPのバイアンドホールド戦略では、総損益133%、最大ドローダウン41%となりました。
最大ドローダウンではSPYのバイアンドホールドに比べて優れていますが、総損益が少なくなっており、あまり美味しいとはいえませんね。
では、その他の組み合わせではどうかというと、上昇局面でエネルギーセクター(XLE)を買う戦略が総損益250%ともっとも優れていました。
この組み合わせだと最大ドローダウンは51%ですので、SPYのバイアンドホールド戦略の70%よりは改善しているため、総損益も、最大ドローダウンも優れた結果となっているといえます。
一方、最大ドローダウンの点では、上昇局面で公共事業セクター(XLU)を買う組み合わせとヘルスケアセクター(XLV)を買うという組み合わせがどちらも最大ドローダウン38%でもっとも優れた結果となりました。
この戦略の総損益は公共事業セクター(XLU)が199%、ヘルスケアセクター(XLV)が198%であり、SPYのバイアンドホールド戦略の154%よりも大きくなっており、これらの戦略も優れた組み合わせだといえます。
(まとめ)おすすめのETFの組み合わせは
以上をまとめると、
- 総損益の点では、上昇局面でエネルギーセクターのETFであるXLEを買い、下落局面で生活必需品セクターのETFのXLPを買う
- 最大ドローダウンの点では、上昇局面で公共事業セクターのETFであるXLUを買い、下落局面で生活必需品セクターのETFのXLPを買う
- 最大ドローダウンの点では、上昇局面でヘルスケアセクターのETFであるXLVを買い、下落局面で生活必需品セクターのETFのXLPを買う
のいずれかがおすすめの組み合わせだといえます。
ただし、上昇局面でエネルギーセクターを買うことは、通常のセクターローテーションの考え方に合致していますが、公共事業セクターやヘルスケアセクターはディフェンシブなセクターと考えられるため、上昇局面で公共事業セクターやヘルスケアセクターを買うという戦略はあまり一般的な戦略とはいえず、出遅れたセクターを狙っていくような形になる点は留意しておきます。