明瞭性の原則の意味と内容|会計基準の具体例は総額主義、重要な会計方針、後発事象の3つ
明瞭性の原則と意味と内容:総額主義
会計学における明瞭性の原則とは、企業会計原則の一般原則の1つであり、企業会計は財務諸表によって利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示しなければならないとする原則を意味します。
この明瞭性の原則の具体的な内容として、財務諸表の表示は、原則として総額主義による記載が要請されています。
会計学において総額主義というのはどういうものかを損益計算書(P/L)の表示で考えてみます。
売上高 | 40,000 |
売上原価 | 28,000 |
売上総利益 | 12,000 |
損益計算書(P/L)では、売上高から売上原価を引くことで売上総利益が計算されます。
このときに売上高や売上原価を表示せずに(計算の結果にあたる)売上総利益だけを表示することを純額主義といいます。
これに対し、「売上高-売上原価=売上総利益」という計算プロセス全体をきちんと表示することを総額主義といいます。
つまり、損益計算書P/Lで売上と売上原価を表示せずに売上総利益だけを表示するような純額主義では、利益はわかるけど、その元となる売上や売上原価の大きさがわからないので、そういったことはいけませんよということが総額主義の意味になります。
では、この総額主義についてほかの具体例をみてみます。
総額主義の具体例:減価償却累計額
会計学において減価償却というのは、固定資産の価値の減少分を費用として認識する手続きです。
この減価償却により認識されるP/L上の費用が減価償却費になります。
そして、減価償却累計額というのは、いままで費用として処理されてきた減価償却費の合計であり、いままでに減少した固定資産の価値の合計を意味します。
減価償却累計額について、貸借対照表(B/S)の表示をみてみます。
建物 | 6,000 | |
減価償却累計額 | △2,700 | 3,300 |
貸借対照表(B/S)では、建物を純額で3,300とは表示せずに減価償却累計額の金額が分かるように総額で表示しています。
これは、固定資産の取得原価(つまり買ったときの値段)が6,000であり、そこから使っている間に価値が減少し、いままでの価値の減少分の合計(減価償却累計額)が2,700であり、今現在の固定資産の価値が3,300であるということを計算プロセス全体がわかるように表示しています。
これが総額主義のあらわれになります。
総額主義の具体例:貸倒引当金
会計学で貸倒引当金とは、受取手形などの債権のうち返ってこないだろうと思われる金額をあらかじめ見越して資産からマイナスする評価勘定です。
受取手形 | 10,000 | |
貸倒引当金 | △500 | 9,500 |
受取手形の金額についてみると、純額で9,500というふうにはせずに貸倒引当金の金額が分かるように総額で表示しています。
この意味は受取手形の額面の金額は10,000あるけれど、このうち500は返ってこないだろうと思われるので、あらかじめその分を引いてありますよということです。
そのため、実際に返ってくるだろうと思われる分として9,500が貸借対照表(B/S)の資産として計上されることになります。
以上が総額主義の具体例です。
総額主義の例外:純額主義による表示
ただし、これらの減価償却累計額や貸倒引当金については、減価償却累計額や貸倒引当金の額を注記して、貸借対照表にはそれらを控除した純額で表示することも例外として認められています。
つまり、減価償却累計額や貸倒引当金については注記として分かるようにしておけば、純額によって表示してもいいとされています。
この例外規定によるBSの表示は、たとえば減価償却累計額でいうと以下のようになります。
建物(注) | 3,300 |
(注)減価償却累計額がそれぞれ控除されている 建物 2,700
明瞭性の原則におけるその他の注記事項
その主なものに重要な会計方針というものと後発事象というものがあります。
重要な会計方針:明瞭性の原則における注記事項1
まず、明瞭性の原則における注記事項の1つ目、重要な会計方針についてです。
財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならないとされています。
重要な会計方針の例
- 有価証券の評価基準及び評価方法
- 棚卸資産の評価基準及び評価方法
- 固定資産の減価償却方法
まず、①有価証券の評価基準及び評価方法についてですが、評価というのは有価証券の金額を決めることをいいます。
その評価の基準と方法を注記しなければいけないということです。
また②棚卸資産の評価基準及び評価方法や③固定資産の減価償却方法なども注記が必要になります。
では、これらについて注記が求められる理由は何でしょうか?
ある取引について複数の会計処理が認められている場合には、どのような会計処理によっているのかを明らかにしないと投資家の判断を誤らせるおそれがあります。
そのため、投資家の判断を誤らせないようにするために注記が求められます。
一方で、代替的な会計基準が認められていない場合は、会計方針の注記を省略することができます。
代替的な会計基準が認められていない場合、それ以外選びようがないので、投資家の判断を誤らせるおそれは少ないといえます。
ですから、この場合は注記しなくてもいいよということです。
後発事象:明瞭性の原則における注記事項2
後発事象とは、貸借対照表日後に発生した事象で、次期以降の財政状態および経営成績に影響を及ぼすものという意味です。
この重要な後発事象は財務諸表に注記する必要があるとされます。
たとえば、決算期の翌月に工場が火災により消失した場合の損失が重要な後発事象の具体例です。
貸借対照表などの財務諸表は、決算期までの会社の財政状態・経営成績を表しています。
ですが、決算期の終わりである期末がきてから、財務諸表をつくってそれを発表するまでの期間の間にはひらきがあるのが普通です。
―― 期末 ―― 火災 ―― B/S公表 ――→
この間に将来の会社の財政状態や経営成績に大きな影響を与えるような(火災のような)出来事があった場合には、投資家に注意を呼びかけるために後発事象として財務諸表に注記をする必要がありますよということです。
重要な会計方針や後発事象の記載方法
このように重要な会計方針や後発事象については財務諸表に注記する必要があります。
では、どのように注記するのか、それが注記事項の記載方法になります。
会計学では重要な会計方針に関わる注記事項は、損益計算書および貸借対照表の次にまとめて記載するとされます。
P/LとB/Sの次に注記としてまとめればいいよということですね。
なお、その他の注記事項についても、重要な会計方針の注記に次に記載することができるとされています。
以上が会計学における一般原則の1つ、明瞭性の原則のお話になります。