コースの定理の意味をわかりやすく解説|交渉での外部性の内部化
経済学(経済原論)における外部性の理論であるコースの定理とは何かについて、身近な例に触れながらわかりやすく説明します。
コースの定理と身近な例をわかりやすく解説
ミクロ経済学の市場の失敗の1つである外部性におけるコースの定理についてわかりやすく説明します。
コースの定理とは、外部性がある場合、取引費用(= 交渉のコスト)がかからないなら、法的権利がどちらに認められていても、交渉によりパレート効率的な資源配分が実現できるという定理を意味します。
コースの定理ではグラフなどは出てきませんので、言葉だけで説明していきます。
コースの定理の具体例としてたとえば、財の生産で公害が発生するようなケースをイメージします。
市場の失敗として公害などの負の外部性である外部不経済が生じている場合、生産のたびに市場の外で悪い効果が発生します。
この外部性を市場の中に取り込み内部化する手段として、(税金をかけることで最適な状態を実現する)ピグー税などがありますが、コースの定理は当事者同士の交渉により最適な状態を実現するものです。
コースの定理では、生産のたびに公害が生じるケースにおいて、財を生産できる権利を法律で定めて、その権利を公害の被害者である住民か公害の加害者である企業(生産者)のどちらかに与えます。
そして、後は交渉に任せることで最適な資源配分が実現できるとする、それがコースの定理になります。
コースの定理の具体例
このコースの定理について具体的な例で考えてみます。
たとえば、被害者である住民の側に財を生産する権利(図の○)がある場合、企業は生産をするために住民にお金(図の$)を渡して、被害者の持っている財を生産する権利を購入する必要があります。
財を生産する権利の買い取りは企業にとってはコストになるので、(税金により公害を是正する)ピグー税の場合と同じように生産量が減少し、最適な資源配分が実現することになります。
この場合は被害者(住民側)としては公害が生じるけれども、お金がもらえるから「まあ、いいか」ということになります。
その意味で企業(生産者)が被害者である住民に金銭補償するこのケースは、住民の権利を重視していることになります。
一方で、加害者の企業に財を生産する権利(図の○)がある場合、被害者は生産を減らしてもらうために加害者にお金(図の$)を渡して利益補償をする必要があります。
この場合、企業は財を生産する権利を持っているので、好き勝手に生産をします。
ですが、それだと住民はたまらないので、企業に利益補償としてお金を渡すかわりに生産を減らしてもらうことになります。
この利益補償により、生産を減らすことで減ってしまう利潤の減少分(逸失利益)を住民が支払うことで企業の生産を減らしてもらえることになります。
この場合も生産が減少し、最適な(パレート効率的な)資源配分が実現することになります。
この場合は被害者はお金を払うことになりますが、その分、公害が減るのでしょうがないかということになります。
住民が企業にお金を払うというこちらのケースは企業側の権利を重視しているといえます。
どちらの場合でも最適な資源配分が実現するため、社会全体の総余剰は変わらないということになります。
つまり、どちらの場合も生産が減って最適な生産量となるため、パレート効率的な資源配分が実現するということです。
当然、どちらに権利を認めるかによって被害者(住民)と加害者(企業)のどちらかがより得になったり、損になったりしますが、経済学は公正性については判断しないため、それについては問題にはしません。
経済学は効率性だけを問題にするんだということですね。
コースの定理の問題点:取引費用がかかる場合はコースの定理は成立しない
このコースの定理が成り立つには、前提条件として、取引費用(交渉のコスト)がゼロであるというのが条件になります。
取引費用というのは、たとえば弁護士の費用などのことです。
このような取引費用がかかる場合は、コースの定理は成立しないんだということになります。
現実の世界では、住民が交渉するためには弁護士費用がかかりますから、現実の世界では前提条件を満たさないことが多く、コースの定理は成立しないと考えられます。
コースの定理の身近な例
コースの定理について身近な例で説明します。
工場の騒音公害(環境汚染)
まずは、先ほど説明した公害のケースの具体例になりますが、工場が隣接する住民に対して騒音公害を引き起こしているケース(または環境汚染を引き起こしているケース)です。
この場合、工場が住民に金銭的補償を行い、操業を続けることを許可してもらう。または、住民が工場に金銭的補償を行い、操業を止めてもらう。いずれの場合でも、取引コストがゼロであれば、初期の所有権の分配に関係なく、交渉により効率的な結果が得られることになります。
風力タービンの騒音
次の例として、風力発電において風力タービンが近隣住民に騒音公害を引き起こしているケースが挙げられます。
この場合、風力タービンの運転により住民に与えられる騒音のコストと風力タービンによるリターンを比べ、騒音のコストよりもリターンが高い場合、発電事業者は住民に金銭補償をしてでもタービンの運転を継続します。
一方で、騒音のコストがリターンを上回る場合には、住民は発電事業者に金銭補償をすることでタービンの運転を停止することになります。
よって、この場合も取引コストがゼロであれば、所有権の初期配分に関係なく、交渉により効率的な結果が得られることになります。
魚市場とコーヒーショップの悪臭問題
3つ目は魚市場の悪臭が隣接するコーヒーショップの営業に悪影響を与えているケースです。
この場合の解決策としては、魚市場がコーヒーショップに補償を行うか、コーヒーショップが魚市場に補償を行うことになります。
魚市場とコーヒーショップのどちらの法的権利(営業活動の自由)を優先する場合も、取引コストがゼロであれば交渉により効率的な結果が得られることになります。
このようにいずれのケースでも取引費用が存在しなければ、交渉により問題解決がなされることが理解できます。
コースの定理以外の外部性を内部化する手段
コースの定理以外の方法で外部性を内部化し、最適な資源配分を実現する方法として、ピグー税やピグー的補助金があります。
ピグー税は外部不経済が生じているときに外部不経済の処理コストと同じだけの税金(従量税や従価税)を課すことです。
ピグー税により企業に外部不経済をコストとして認識させることで最適な状態を実現することができます。
一方で、ピグー的補助金は外部経済が生じている場合に実施されるものになります。
コースの定理をわかりやすく解説:まとめ
以上のように交渉により外部性を内部化するのがコースの定理になります。
最後にコースの定理の定義と前提条件をまとめてみます。
定義:外部性がある場合、取引費用(= 交渉のコスト)がかからないなら、法的権利がどちらに認められていても、交渉によりパレート効率的な資源配分が実現できるという定理
前提条件:取引費用(交渉のコスト)がゼロである
具体例:工場の騒音公害(環境汚染)、風力発電の風力タービンによる騒音など
コースの定理についてのお話は以上になります。